[短編小説]黒い瞳の少女
レネ
第1話 プラットフォーム
男は夜になって、同棲相手のララを迎えに駅に行った。
男は名をセラフといった。今年30になる。一方ララは男より2つほど年上だった。
セラフは駅のベンチに座ってララを待っていた。ダークブラウンの、少しだけ天然パーマのかかった髪をかきあげ、腕組みをして脚も組んだ。
一見横柄な態度だが、もう夜も遅く、ホームには人っ子1人いなかったのだ。
と、思ったところへ、トコトコと小さな歩幅で白っぽいコートを着た少女が近づいてくるのが見えた。
セラフの青い瞳は、その少女をじっと見つめていた。
少女の瞳は黒かった。同様に綺麗な黒髪は肩まで垂れていて、セラフのところへ来ると、彼女は彼にこう尋ねた。
「この辺に、泊まるところはありますか?」
セラフは、
「何だって?」
と聞き返した。だって、こんな夜更けにこんな少女が泊まる場所を探しているなんて、ちょっと、いや、かなり奇妙じゃないか。
「泊まるところを探しているんです」
と、少女は言った。
「きみ,いくつ?」
少女は黙っている。セラフには、10歳から12歳くらいに見えた。
「おうちはどこなんだい?」
「それが、分からなくなっちゃったんです」
「迷子か……困ったな」
少女は綺麗な二重の目で、セラフを訴えるように見つめた。
「この駅のすぐ裏にホテルはあるけど、お家の人と連絡とらないと、心配するだろう」
少女は黙っている。
そしてみるみるうちに涙目になり、雫がポロポロと頬を伝うのだ。
「分かった、分かった。泣くな。今晩は俺んちに泊めてやるから、ここに座んな」
セラフはベンチの自分のすぐ横を叩いた。
少女は泣くのをやめて、そこへ腰を下ろした。
「きみ、名前は何ていうの?」
少女は下を向いて、ゆっくり首を振った。
「言えないのか。仕方ないな。じゃあ、仮にエレットということにしよう。エレット、ぼくはね,今ララというおんな……」
その時列車が到着した。いつもの車両からララが降りてくる。
「ただいま」
といつもなら抱擁してキスを交わすのだが、少女に気づいたララは、
「どうしたの?」
とセラフに言った。
「いや、実は迷子なんだ。名前はエレット、12歳、綺麗な子だろ?」
「そう言えば,私たちと顔立ちが違うわね。髪も目も黒いし、肌は白いけど、やっぱりちょっと見かけない子ね。(エレットに向かって)お嬢ちゃん、おうちはどこかな?」
エレットは小さく首を振りながら,セラフの後ろに隠れるような素振りをした。
「あら、ごめんね。人見知りをしてるのね。じゃあきょうはうちに泊まればいいわ。それからのことは、明日にしましょ」
エレットの表情がやわらぎ、少し微笑んだので、セラフとララは顔を見合わせて笑った。
「ささ、寒いでしょ? 3人でおうちに帰りましょ」
エレットを真ん中にして3人は歩き始めた。丸い月だけが、ぽつんと3人を照らしていた。
一体どうしたことだろう。セラフもララも、こうして少女を連れて家へ帰ることに、微塵の不自然さも感じることはなかった。
むしろこれは、至極自然なことで、この子を保護して、養ってあげなければ、という気持ちが当たり前のように芽生えていた。
3人はピソと呼ばれる自分たちが住んでいる建物の3階に彼女を連れて行き、客間のベッドに寝かしてやった。
布団に入った時、エレットは初めて微笑み、そして何より、
「どうもありがとう」と言った。
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