人間でいられる最後の時間。自分が人間であることを、精一杯に心に刻む

 ゾンビ化していく主人公。その「最後の想い」がとても詩的に綴られていきます。

 コロナウィルスの蔓延した後、次にはゾンビウィルスが発生して壊滅した世界。
 その中で主人公もゾンビウィルスに感染し、間もなく人間ではいられなくなるのを自覚する。

 人間でいられる最後の時間。そんな残りわずかな「人間性」を必死に繋ぎとめるようにこれまでのことを必死に思い返そうとする。

 恋人だったサキ。彼女への想い。彼女の笑顔。そして彼女との間に作り損ねた思い出。
 彼女の「今」を思ってまた切なくなる。

 終末の世界での「最後の人間」となってしまった彼の必死の想い。切実で、それでいてどこか美しい。
 流れるように心に響いてくるこの切ない思いが、もの悲しさと共に力強さを感じさせてくれました。