“お嬢様”の語り口で走り切って、最後にすとんと床が抜ける。

幽霊になったお嬢様が、病院の三階から出られないまま犯人探し――導入だけ見ると軽妙なミステリ遊戯に見えるのに、読み進めるほど“ズレ”が増えていく短編。豪奢な固有名詞やパーティーの記憶、香りや服の段取り、SNSの数字。華やかなディテールが多いのに、病院の匂いと同じ密度で並べられていて、どこか現実味が薄い。その違和感が、ちゃんと仕掛けになっている。

面白いのは、探偵役のはずの語り手が、推理の前にまず「自分」を守ろうとするところ。犯人探しが進むというより、嫉妬や執着が視界を狭めていって、病棟の廊下がだんだん檻みたいに見えてくる。恋人の花束、同じ病室、同じ時間――反復が不安を育てる書き方が効いてる。使われている曲もうまい。

そして終盤、いくつかの小道具が一気にひっくり返って、タイトルの軽さがそのまま刃になる。可愛い語りと残酷な落差が好きな人に刺さるやつ。