“大好き”が、最短距離で地獄に着地する

冒頭から終盤まで、語り手の言葉は一貫して「夫が大好き」で押し切られる。その熱量がまず異様に明るい。日常の可愛い観察と、献身の自己肯定が、同じテンポで積まれていくから、読み手は笑いそうになった瞬間に背中を撫でられるみたいな不穏さを感じる。

この短編の怖さ(そして可笑しさ)は、愛情表現が一切ブレーキにならないところ。大好きの対象が“生活”から“食材”へ滑っていく過程が、語彙のまま起きる。擬音や料理の連想がコミカルに見えて、実際は温度も匂いも生々しい。ふわっとした狂気じゃなく、手触りのある狂気。

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夫せんべい

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