第2話 解答編
「……手掛かりは既に全部出揃っているだって!?」
俺は思わず大きな声を上げる。
一応は俺も現場の状況から、それらしい推理を試みてはいた。
公園の入口から
しかし、例外も存在する。それは女よりも足の小さい人間だ。
犯人は女の足跡の上を歩くことで、自分の足跡をつけずに女を殺害した。その後、同じように足跡の上を後ろ歩きで戻って公園から出たのだ。
……そこまで考えて、俺は自分の推理に首を捻る。
犯人は何故そんなことをした?
足跡を残さないことが、果たして本当に犯人にとってメリットのある行動か?
女は明らかに鋭い刃物のようなもので刺し殺されていた。それも滅多刺しだ。この状況で女が自殺したなどと警察が考えるとは思えない。
それに折角足跡を残さなくても、それと引き換えに犯人の足のサイズがわかってしまっては本末転倒だ。
そもそもの話、現場に足跡を残したくないのなら、雪が降る天候を選ばなければそれで済む話である。ここは児童公園だ。普段なら老若男女、様々な人々の足跡が犯人の足跡を隠してくれる。
「……やはり俺には何が何だかさっぱりわからない。丑の刻参りの呪いが女自身に返ってきたとしか思えないのだが?」
「まァ、兄貴がその結論で納得できるなら、それはそれでいいとは思うけどね」
「……何だよ、随分突き放すような言い方じゃないか」
「別にそんなつもりはないよ。それはそれで一概に間違いとも言い切れないってこと。ところで兄貴、児童公園の椚の樹といえば、夏にはクワガタが捕れるんだったよね。昔、兄貴が捕り方を教えてくれたの覚えてる?」
その頃は俺も妹もお互いにまだ小学生で、妹も外で元気に遊び回っていた筈だ。
「……ああ、そんなこともあったかな。それがこの事件と何の関係がある?」
「原理としてはそれと同じだよ。兄貴が教えてくれた方法は、椚の樹の根本の辺りを足の裏で思い切り蹴るんだったよね? すると樹液に集まったクワガタが地面にボタボタ落ちてくる」
「……今は真冬だぞ?」
俺にはまだ妹が何を言いたいのかが見えて来ない。
「冬に同じことをすればどんなことが起こるか、よく考えてみてよ。樹上から落ちてくるのは当然、クワガタなんかじゃない。樹上に降り積もった雪…………それから、枝から垂れ下がっている
「……あッ!!」
そこで俺は頭を殴られたような衝撃を受ける。
「丑の刻参りをしていたということは、女は藁人形を樹に押し当てて杭を金槌で打ち付けていたってことだよね? その衝撃と振動で枝から氷柱が落ちてきて、女の胸や背中を貫いた。それが真相だよ」
何ということだ。確かにそれなら足跡が女一人分であることの説明がつくし、女の命を奪った氷柱は溶けて消えてしまったと考えれば目の前の状況と矛盾しない。
今回も言わてみれば「何だそんなことか」というような簡単な真相だが、俺には丑の刻参りの儀式と氷柱事故を結び付けて考えることなどできなかった。
――やはり俺の妹は天才なのかもしれない。
「……ねェ兄貴、亡くなった人がどんな事情を抱えて丑の刻参りをしようとしたのかは知らないけれど、きっと優しい人だったんだろうね」
「……どうしてそう思う?」
「本当に殺したいくらい恨んでいる相手がいるなら、呪いなんていう
「単に自分の手を汚したくなかっただけかもしれない」
「うん、或いはそうかもね。そう考えると、やっぱ私は幸せ者だなァ」
「……何でそんな結論になる?」
「だって学校でいじめにあって引き篭もりになっても、私には私の存在を認めてくれる家族がいたんだもん。逃げることを許してくれて、味方になってくれる家族が」
「……そんなの、別に家族なんだから当たり前だろ」
「だからかなァ、不思議と私をいじめていた子たちを恨む気持ちにはなれないんだよね。彼女たちにはきっと私のパパやママ、それに兄貴みたいな温かい存在がいないんじゃないかと思うんだ。そして、公園で丑の刻参りをした女の人にも」
「…………」
「兄貴、立ち上がるのにもう少し時間かかりそうだけど、勉強だってちゃんとやってるし、これでも私、前に進みたい気持ちはあるんだよ? だからさ、もうちょっとだけ待っててくれないかな?」
「……ああ、わかってる。そろそろ警察が来るから切るぞ。ちゃんと暖かくして寝ろよ」
「うん」
俺は電話を切ると、椚の下の女性の遺体に向かってそっと手を合わせた。
【了】
丑の刻参り・雪密室の謎 暗闇坂九死郎 @kurayamizaka
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