忘れないで。僕を

そうこれは、人の記憶を彷徨う少年の物語。


この村には「誰も知らない男」がいる。
一体何処からきて、何処へ行くのか。
わかっているのは、古い北方の言葉を使うこと。
それ以外は、誰も何も知らない。


この辺りは、アメリカのハドソン川あたりを放浪していたとされる都市伝説上の人物『レザーマン』を彷彿とさせます。

しかし、彼は放浪をしていたわけではなく……
それは彼に課せられた残酷な運命とでも申しましょうか。


『夜空から月が消えてしまうと、誰もが彼を忘れる』という呪いめいた体質を持っているのにございまして。
ゆえに彼は、おそらく何処かに放浪していたわけではなく、ずっとそこにいて、人間の心を放浪していたのにございます。

そして、痕跡だけ残して去っていく。記憶から、去っていく。




人々が彼を忘れる感覚はまちまちです。
それは雲が月を隠す時。
いつくるのか分からないのです。しかしそれが一年続いた試しがありません。


誰にも覚えてもらえない少年。

この辺りはカスパーハウザーを彷彿としますが、彼の場合はそうですなあ……
『逆メメント』とでもいえば良いのでしょうか?


人から『忘れられる』存在なわけですので。





そんな彼が、一箇所にとどまることができるのか?



これは、

月が隠れる夜が来るたびに、全ての人間から忘れられる少年が体験した、
『ある期間』の軌跡の話にございます。



積み重ねたものが一晩で崩されるのは、賽の河原を彷彿としますし、

大事な人から忘れられる感覚は、『ある病気』が思い起こされます。

そして少年は歳を取らない。一生、忘れられるためだけに生きている。

そんな彼が、体験したある奇跡の時間。




ご一読を。