静かで、残酷で、それでもどこか温かい、完成度の高い作品
- ★★★ Excellent!!!
学園怪異譚と叙情的ホラー、そして静かな救済が巧みに融合した一編だと感じました。冒頭の「牛乳を飲み忘れた」という日常の些細な違和感から始まり、それがやがて“同じ一日を繰り返し続ける地縛霊”という核心へと回収されていく構成は非常に美しく、読後に強い余韻を残します。
苦界院永久は、非常に繊細に描かれた存在です。
逃げ惑う少女としての弱さと、日常へ帰りたいという切実な願いが一貫しており、
終盤で“工場”“ドラム缶”“季節の齟齬”に気づいていく過程は、読んでいて胸が締め付けられました。
一方の切崎贄子は、本作の象徴的存在です。
焼け爛れた半身、鉛筆という武器、軽薄な口調と冷酷な仕事人としての顔――
これらが矛盾なく同居し、「救う側でありながら決して優しい存在ではない」という独特の立ち位置を確立しています。
彼女が“真実を直接告げない”選択をする点は、本作のテーマ性を最も強く体現している部分でしょう。
「救済とは真実を知ることなのか、それとも知らずに終わることなのか」
という問いにあると感じました。
ホラーとしての怖さ、キャラクターの魅力、構成の巧みさ、そして余韻。
いずれも高い水準でまとまっており、ホラーとして非常に完成度の高い作品だと思います。