丁寧な描写と感情の物語
- ★★★ Excellent!!!
大学の卒論取材のため、山あいの小さな村を訪れた主人公は、白い布を織り続ける少女・澄羽と出会う。
村では「白羽様」と呼ばれる存在が風と糸を通して村を守ると信じられており、澄羽はその役目を担う少女だった……
全体を通して、とても静かで、やさしい物語だと感じました。
大きな事件や派手な展開はありませんが、そのぶん一つ一つの描写や感情が丁寧で、自然に心に入ってきます。
澄羽という少女が「守る存在」でありながら、ただ空を飛びたいと願う普通の少女でもあるところが、とても切なかったです。外の世界を知らないまま役目を背負わされている姿に、胸が苦しくなりました。
また文体については、とても繊細で、詩に近い印象を覚えました。
一文一文が短めで、余白を多く残す書き方のため、説明しすぎず、読者に感じさせる力が強いです。
特に、「風」「白」「糸」「音」といったモチーフが繰り返し使われており、物語が進むにつれて意味が変わっていくのが、上手いと感じました。