いたいけな少女を介して体感する、圧巻のディストピアS F

本作は主人公ユーリが一人きりの3畳間から始まります。ユーリの主観を通じて、徐々に彼女の住む世界が明らかになってゆく。

ユーリの日常から観測されるのは、彼女の呑気さとは裏腹な、凄惨なまでのディストピア。食事は3Dプリンターが吐き出すグミだけ。「味」という概念すら曖昧。「野菜」や「穀物」は忘れ去られて久しい。栄養失調で死に頻したクラスメイトは、タンパク源として再利用が義務付けられる。

その読書体験は、まるで彼女の住むディストピアを追体験するかのようです。

そして、物語はユーリの脳内に響く声の由来に収束してゆく。
四年前の、現実には考えられないほどに大規模な墜落事故。

彼女が「うるさい」と思う声の正体が明らかになり、本作は未来への余韻を残して幕を閉じます。

作者様が本作を通じて表現したかったものは何だったのか? 読後に考えさせられました。もしかしたら、ユーリという主人公を通じて、この救いの無いディストピアな世界自体を、表現されたかったのではないか?と。そして、それはこの物語の序章に思えて仕方がない。

読後感は、ささやかな希望。救いようのないディストピアでは終わらない、未来への明るい奥行きを残して、幕を閉じるのです。

この物語は、おそらく完結していません。続きがあるはず。いや、どうか続きがあって欲しい。
是非とも、「ミツバチが運ぶ銀色の夢」の結末を、見届けたいと思いました。

素晴らしいディストピアSFを読ませて頂き、ありがとうございました。

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