自分の創作が、自身に何もたらすのか。
大切なことに気付かせてくれた、心温まる物語です。
高校の頃、友達が絵を見て喜んでくれたことがきっかけに絵を描き始め、主人公の夢だったデザイナー職に就職することに。
筆を折るという大きな挫折はなく順風満帆かと思いきや、最初に感じていた"好き"とは少しずつかけ離れてしまいます。
そんな中である日、とある出来事に見舞われ――
「絵を描くことの意味」
「自分の絵がもたらすもの」
を主人公はもう一度問うことになります。
序破急の3部構成で展開され、全体的にすっきりした文章でスムーズに読めました。
ぜひぜひ創作に関わってる方々に読んでほしい一作です!
静かで温かな感動がじんわりと包み込んでくれます。
主人公の由紀は、多忙なデザイナー。兼業のイラストレーターでもあります。
彼女が絵を描くきっかけとなったのは、高校時代のある出来事でした。
その出来事により、由紀は進路を選び取ります。両親と喧嘩をしながらも。
やがて社会人となり、デザイナーとして働く多忙な日々。
そんな日々で、由紀は絵師としての自分を忘れかけてしまう。
しかし、両親との「とある約束」や、突如襲いかかる事件、高校時代の友人たちとの繋がりが、絵を描くことの意味を明らかにしてゆく。
とても端正で、するすると読めてしまう文体です。それでいて、登場人物たちの心の機微が豊かに伝わります。
高校時代の友人、家族、様々なシーンを行き来しながら、物語は絵師としての由紀に収束してゆく。
憧れを形にすること、創作することの素晴らしさを、豊かに描いた本作。
物語を愛する全てのカクヨムユーザーの、心に響くと思います。
オススメです!
本作がもっとも鮮やかに描き出しているのは、創作とは誰かへの贈り物であり、想いを届ける優しく温かな行為であるというテーマである。由紀はプロとして働きながらも、父への誕生日の絵を義務のように扱い、創作の心を見失いかけていた。しかし、父の急病と回復を通して「贈れる回数には限りがある」現実を知ることで、絵が“気持ちを託す手紙”に変わっていく過程が丁寧に描かれる。
そして沙織の小説に感動して描いたファンアートは、由紀にとって初めて“喜んでほしい相手”の顔を思い浮かべながら描いた絵となり、創作の本質を再確認させる。文化祭で友人たちが驚いたあの瞬間と同じように、同窓会で披露したファンアートに、沙織も仲間も心から歓声を上げる。この反応が、由紀の胸に“描く喜び”をもう一度灯す。
「絵は贈り物」だ。描いて、本当に良かった。
この一言に、本作の温かさが凝縮されている。