第五十二話 娘と父

 いつものように二階に上がった真優美まゆみは、隣り合うほまれの部屋のドアを見た。むしょうに涙がこみ上げてくる。真優美は部屋に飛び込むと、そのままベッドに身を投げた。


              ○


 気がつくと、真優美は車に乗っていた。隣ではリカが運転している。

「あなたの名前、あたしのお母さんと同じなの。もし誉と結婚したら、お母さんと妹が同じ名前になっちゃうね」

 リカの言葉に、真優美は笑いながら答えた。

「それなら今まで通り『誉の妹さん』でいいですよ」

「僕たちに子どもが生まれたら、周りと被らないよういい名前を考えないとな」

 後部座席の誉がうなずく。隣の席の一希かずきが言った。

「俺もいつか、そういう日が来るのかな」

「もちろんさ。真優美を頼むぞ」

「兄さんったら」

 真優美は思わず振り向いた。意識が遠のく。


              ○


 気がつくと、真優美はベッドの上に横たわっていた。いつの間にか眠ってしまったようだ。階下から公美子くみこ慟哭どうこくが響いてくる。

「お母さん、許して」

 真優美は枕に顔を埋めた。


 誰かが階段を上がってきて、そのまま真優美の部屋のドアをノックした。

「真優美、いるのか」

 豊雄とよおの声だが、まるで別人のように沈んでいる。真優美は部屋の電気をつけるとドアを開けた。

「父さん」

 リカとのいきさつを知ってしまった真優美は、豊雄の顔を直視できずうつむいた。

「警察署で、お前が誉と一緒にいたことは聞いた。怪我はないんだな」

「うん」

 真優美はうなずく。

「誉と彼女の遺体は、調査のために警察で預かっている」

 真優美は顔を上げた。そのまま豊雄をにらみつける。

「リカさんのこと、どうして兄さんに黙っていたの。きょうだいだと分かってれば、二人とも死ななくても良かったのに」

「それは」

 いつも冷静な豊雄がうろたえている。真優美はさらに詰め寄った。

「わたしの名前、リカさんのお母さんと同じなんだって。父さんがつけたの?」

「名前は私だが、漢字は母さんがつけた。もういいだろ」

「母さんにはちゃんと話してよね」

 そう言うと真優美はドアを閉めた。豊雄が階段を降りていく。真優美はベッドに腰掛けると、顔を手で覆った。


              ○


 しばらくたち、ようやく気力が戻ってきた真優美は、カバンを片付けようと立ち上がった。その中にテープが入っていたことに気づく。真優美はむしょうにテープを聴きたくなり、誉の部屋からテープレコーダーを持ってきた。

 テープを入れると、一希の歌う『君に贈る歌』が流れてくる。真優美は目を閉じ、一希の歌声に聞き入っていた。

(わたしにはまだ、一希くんと歌がある。兄さんとリカさんのこと、絶対に忘れないから)


              ○


 階下に降りた真優美は、抜け殻のようになった公美子の代わりに夕食を作っていた。居間のテレビでは、ニュースが晴海埠頭の火事について報じている。

晴海はるみ埠頭ふとうで爆発物を積んだ車が倉庫に激突し、乗っていた男女二名が死亡しました。警察ではテロ事件との関係を調査しています』

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2026年1月22日 07:00
2026年1月23日 07:00
2026年1月24日 07:00

疾風勁草~あなたのメロディ、私の詩~ 大田康湖 @ootayasuko

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