これは一つの時代の転換点。古きものとなりゆく「神」たちの心の内は?
- ★★★ Excellent!!!
人と怪異。そして新しいものと古いもの。そうした色々な対比について考えさせられる物語でした。
主人公の奈津野と柚木耶の二人は「蛇神」の化身。人間の姿をしてはいるものの、絶大な力を持っており、付近の住民のために雨を降らせるなどの恩恵を与えた。
しかし、村人たちは「雨」の対価として娘を差し出すと約束していたものの、いざとなったらそれを反故にする決断をしてしまう。
奈津野のことをないがしろにされた柚木耶は怒り、村人たちに思い知らせたいと願うが……。
神に対して願い事をし、その際に人間が約束を破り、怒った神が災いをなす。それを旅の武芸者なんかが見事に退治……というような物語は昔話としてちょくちょく語り継がれているものであります。
基本は「美しい娘を怪異から守ってあげる英雄の話」みたいに語られますが、神の側からすれば理不尽極まりない。
ちゃんと約束を守ってもらいたいだけなのに、なぜか化け物扱いされて退治までされるという。
本作はそんな「神」の側から見た感覚が丁寧に描き出されているのも魅力です。同時に「神」というものが信仰や畏怖の対象ではなくなり、「祠」なども破壊はされるし、蛇神なんかも「退治しても構わない」ような存在として捉えられるようにもなるという。
そういう「今まで当たり前だったもの」が「時代遅れの古いもの」となり、どんどん忘れさせられていくようになる。
本作の奈津野と柚木耶の二人は、そんな「古きもの」とされていく悲哀を一身に受けているのが特徴的でした。
そして、その境遇に憤る柚木耶と、それでも理解を示そうとする温和な奈津野という比較がとても綺麗で、二人の掛け合いから「時代の変遷をどう受け止めるのか」というテーマが浮き彫りになっていく様が読み応え抜群でした。
そんな中でもどこか人間臭く、親しみやすさもある奈津野と柚木耶の姿が微笑ましく、強く感情移入させられます。
「一つの転換点」を活写した、壮大なファンタジー。多くの方にオススメしたい一作です!