第36話『違いとちがいとチガイ』

春の足音が聞こえる晴れの日。


公園へ続く道で、ユーマは視線を感じた。


車が行きかう道路沿いの、小さな広場。

先には公園の木々が見える。


駅にも商店街にも、住宅地にも繋がる分岐点。

たくさんの人が通る場所だった。


その視線は、上から感じる。


ユーマが見上げると、電線にとまったカラスと目が合った。


カラスは「カー」と一声鳴くと、ユーマ目掛けて飛び降りてきた。


ヒューッ、バサバサ!


ユーマの頭上すれすれを飛び越し、ガードレールにとまる。


《ビックリしたか? ユーマ。カカカ》


カラスは目をパチクリさせながらユーマを見る。


さして驚いた様子もないユーマは、カラスに近づきながら広場のベンチへ目を向けた。


〈やあ、ヤタ吉。元気だね〉


〈向こうのベンチに行かない? わたし、腰掛けたいのですが……〉


ヤタ吉は「カー」と鳴いて飛び立ち、ベンチ横の外灯へ移動した。


ユーマは、その後を追うように歩く。


ベンチに腰掛けたユーマは、ジャンパーのポケットからカレーまんを取り出し、一口食べた。


半分になったカレーまんから、微かに湯気が立ち上る。


《ユーマ、良いの着てるな! テカテカキラキラしてるぞ!》


(わたし、ギラン隊長のMA-1……今は違うけど、お気に入りです)


ユーマは、まんざらでもない顔でカレーまんをちぎり、上へポイっと放った。


ヤタ吉はそれを上手く咥えて食べる。


《ユーマ、聞いてくれるか? 俺って嫌われ者かー?》


〈わたし、ヤタ吉嫌いじゃないですよ〉


ユーマは不思議そうな顔で、残りのカレーまんを食べた。


《そ~じゃないの。同じ黒すけなのに、あっちはチヤホヤされてるからさー》


ヤタ吉の視線の先には、女子高生に囲まれているノリの姿があった。


〈ノリは綺麗な黒猫だからね~〉


ユーマは、撫でられているノリを眺める。


《猫はよくて、カラスはダメなの?》


〈ヤタ吉も撫でられたいの?〉


《ばか。俺は撫でられたいんじゃなくて、“違い” の話をしてるの!》


ヤタ吉は羽をバタバタさせる。

少し慌てているようにも見えた。


〈ヤタ吉もノリも好きだよ。わたし〉


〈知らないって損だよね。でも、ヤタ吉も人間嫌いでしょ?〉


ユーマの視線に気づいたノリは、ユーマへ向かってウインクした。


《あいつらって、カラスを見ると嫌な顔するしさ》


〈だって、カーカー大きな声だし、小鳥を追いかけ回すし、ちょっと馬鹿にしてるみたいな動きするし……〉


《カラスだし仕方ないじゃん! しない方がおかしいよ!》


〈人間がしたら変でしょ? キラキラ光る物は好きだけどさー〉


《変だよ! それは。カカカ》


ヤタ吉は「カーカー」と鳴いた。


周りの人たちがカラスを見る。

女子高生たちも見る。


ヤタ吉は一段高く飛び上がり、電線へ戻った。


《ほらね。皆、同じ顔をする》


ユーマは電線を見上げる。


(わたし、ヤタ吉好きだよ! みんな個性が有るのにね。知らないって損だよね)


そして、小さくつぶやいた。


「でも、知らなくて良いかな。カラスの勝手なんだし」


ユーマは立ち上がり、公園へ向かって歩き始めた。


少し前を歩くサラリーマンの頭上を、鳩が飛ぶ。


白いものを落として行く……。


あのサラリーマンに、運が付くだろうか?

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2026年5月20日 20:00

UMAワールド短編集|ちょっとズレた日常観測ログ どらねこ @dora2025

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