第35話『地球がザワついている』
日本を代表する電波天文台、
野辺山宇宙電波観測所 がキャッチした電波を、観測員の春野は公表して良いものか困惑していた。
地球中のニュースが、同じ話題で埋め尽くされていた。
複数の電波観測所が、同一方向から届く異常信号を確認し、発表したのだ。
宇宙から届く謎の電波。
繰り返されるモールス信号。
そして、解析された不気味な文章。
BLUE SPHERE
INVASION
DO NOT ANSWER
専門家たちは議論を続けている。
デマ。
自然現象。
宇宙人の警告。
意見は割れていた。
その頃――。
宇宙防衛軍
『VOID CREW』巡回艦内部。
ギラン隊長は、静かな食堂で熱いお茶を飲んでいた。
すると、腰の通信端末が鳴る。
画面に表示された名前を見て、ギランは事件の匂いを感じた。
「……ゲンゾか」
通信を開く。
同僚のゲンゾからの通信内容は、「地球に届いた謎の電波の発信地を調査してほしい」という依頼だった。
通信画面には、発信源候補の恒星位置や宙域データが表示されている。
相変わらずだな、とギランは思う。
いつでも不愛想なゲンゾらしい。
ギラン隊長は準備を整えると、発信源候補――HD-74192、“ルプス・シグナル星”が存在する宙域へ向かった。
その恒星系には、赤い海を持つ岩石惑星、Lupus b(ルプスb)が確認されている。
ギラン隊長は赤い海を越え、岩石地帯の調査に入った。
風が絶えず吹き荒れる峡谷地帯。
その中で、ギランは奇妙な音を耳にする。
「キーン・ゴリゴリ・キキーン・ゴシキン」
ギラン隊長は即座に身構え、ショックガンへ変形させた右腕を構える。左右前後をくまなく警戒する。
音は一定のリズムで繰り返されていた。
「……うむ」
何も起こらない。
ギラン隊長は警戒を保ったまま、ガジェットを取り出し周辺を分析し始めた。
調査の結果、信号の正体は意外なものだった。
Lupus bの峡谷地帯では、長年風を遮っていた巨大な岩盤が風化によって崩落。
その影響で、磁気を帯びた岩石同士に強風が吹き込み、一定間隔で擦れ合う現象が発生していた。
規則的に発生した振動は、惑星特有の磁場によって電波へ変換。
それが偶然、地球へ届いていたのだ。
さらに、その周期が地球の
モールス信号 に酷似していたため、意味のある文章として誤認されたのである。
ギランは原因をゲンゾへ報告した。
「ゲンゾ、今度一杯おごれよ」
「気が向いたらな」
「地球に伝えるのか?」
「必要ないだろ。もうゴシップ扱いだ」
「うむ」
「そのうちYouTubeのネタになるさ」
通信が切れる。
宇宙船の食堂では、劉故須産の茶葉の香りが静かにギラン隊長を待っていた。
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