Ep.17 イヤミス&メタミスって嫌ですか?

「やっぱ次の小説の題材が思いつかないわね……鉄板のフーダニットにはしようと思ってるのだけれど……だからどうしろって話なのよ。どんな話にすればいいのよ!」


 風村さんは本を何冊か広げ、腕を組んで悩んでいる。

 彼女にトリックのないミステリーを書いてみようと持ち掛けたのだ。トリックがなくても、事件は起きる。まずは主人公が悩むシーンのある短編ミステリーからと持ち掛けてみたのだけれども。

 それでも題材に関してのアイデアが出てこないらしい。


「まぁ、外堀から埋めてみるっていうのはどうかな?」

「外堀って……話の雰囲気から考えればいいって訳?」

「そういうこと。どんな話にするのか、だよね。以前話したかもだけど、読者を後味の悪さを味わってもらおうってことでイヤミスを書いてみてもいいと思うんだ」


 その言葉に彼女は耳に触れていた。


「イヤーカフ?」

「いや、普通にイヤミス。嫌なミステリーの略称だよ」

「なんてそのままな略称なの!? で、その嫌なミステリーって言うのは……」


 通称イヤミス。


「救いのないミステリーだね。犯人が自殺、探偵役も被害者になるとか……。解決してもスッキリしない感じだね。特にあらすじからもう最悪な境遇な主人公が多いパターンが多いかな。身内がもう亡くなっているとかっていうのがあったり……。事件がもう起こっているっていう、もう何というんだろう、最初から平穏な読者を近づかせないっていう強いものがあるね」

「つまり、必要なのは強い悪臭?」

「イヤミス関係なくそんな本は誰も読みたくないよ!?」

「じょ、冗談よ。確かに今、調べてみても……読む前から凄い残酷になりそうだったり、グロテスクになりそうだったりっていうのが伝わってくるわね」


 彼女はスマートフォンを取り出して、「イヤミス」で調べているみたいだ。ただ、そのひび割れている雰囲気が更に崩壊していく様を読むのが好きな読者もいる。そのため、イヤミスという区分分けがされている。最悪なミステリーを探したい人にピッタリな訳だ。

 当然、平穏な日常から崩壊していくミステリーもある訳だが。イヤミスという説明がされていないと、厳しい批評が来ることもある。なんたって、グロが嫌な人がそれに触れてしまったとしたら、トラウマになりかねない。最近はネットの普及も相まって、「その本は意外とグロテスクだよ」と話題になり、苦手な人が「これは読んじゃいけないんだ」と気付くことも多くなったのだろうが。

 

「なるほどね……でも悲劇もいいけど、明るい話も作りたいわね。できれば主人公が階段から転げ落ちて、助手がそれを笑って更に階段を滑り落ちる位」

「明るいのか悲惨なのか……!?」

「でも、それじゃミステリーじゃなくてコメディーになるのかしら?」


 それは違うよと声高らかに言いたくなるのを我慢する。何だか偉そうになってしまうから。ただただ自信の喉に絡まった知識を披露する。


「バカミスっていうミステリーもあるから。それは問題ないと思うよ」

「イヤミスの次はバカミス? 馬鹿になるミステリー?」

「そんな略称嫌だな。普通にバカなミステリー、でいいんだよ。普通に捜査にユーモアな掛け合いが楽しまれる作品にも使われるし、キャラクターの尖りまくる個性が光る作品にも使われることが多いかな」

「でも、なんか名前的にいいのかしら……バカミスで」


 ううむ、確かに作品を蔑んでいるようにも聞こえてしまうが。意外とバカミスというのは本格的な作品にも見られる呼び方だ。


「でも、そう呼ばれる作品はギャグやコメディーが含まれていたり、凶器とかそういうののトリックがとんでもなかったりして、読者はその意外性に驚いたり、笑ったり。感情を刺激されるものが多くてね……あっ、でも人によっては紹介する時に使うと気分を害する人もいるらしいから……あんまり本を紹介する時に使わない方がいいかも。自分の作品を紹介するのに向いている言葉だね。バカミスって」


 後はまぁ、本格派を求める人にとっては敬遠されがちなのかもしれない。読者に対し、直球のミステリーよりかは変化球の作品が多いから。


「なるほど……で、他に何とかミスって呼び方はあるの?」


 最後に思い付くのが一つ。


「メタミスだね」

「メタミス……あれ、出てこないわね」

「メタフィクションミステリー……ううん、これに関してはちょいと説明するのが難しいね」

「あんまり知られてないの?」


 その通り。テーマがかなり限られていることもあって、数も少ないと思われる。


「作品の特徴がメタフィクション、メタって分かる?」

「メタって……作品の登場人物が『これはアニメの世界だ!』とか言っちゃう奴よね。面白い時もあるけど、真面目な時にやられると白けるの」

「そこまでの理解はありがたい……! 物語自体がミステリーになってることかな……」

「ん?」

「一番分かりやすいのが作品の中で推理小説が出てきて、主人公がその中から謎を解いていくってことだと思う……」

「なるほど……読み解いて……でも推理小説って普通は最後に真相とかあるんじゃないの?」

「うん……ただ時折最後まで答えが書かれていなかったり、作者が不明だったり。後は推理小説の裏に隠されている謎とかだったり」

「でも、それって作品を小説内で書かないといけないんでしょ? その作中に出てくる作品を……」

「だから結構大変だと思う。その話を面白くしたりする必要もあるし……ごめん。勧めてみたけど、これは初心者向きのミステリーではないよ」

「りょ、了解」


 ただ、記憶には残しておいてほしい。何回も小説を書いていれば、時たまいろんなジャンルのものに挑戦してみたくなる。読んでみたくなる。その一番、読みたい、書きたいとなった時に選択がいくつもあれば……。


「にしてもミスって色々あるわよね。医療ミスだとか」

「医療ミステリーって言いたいんだろうけど、それだと語弊があるんだよ。単なる医療のミスになっちゃう……」

「後はケアレスミスとか……?」

「それは僕がよくやるミス……」


 まぁ、風村さんにはそんなものは無縁だろう。完璧な才女なのだからと思っていたのだが。

 彼女のスマートフォンに着信音。


「あっ、ミスった……これ、ミステリー小説コンテストじゃなくて、普通のミスコンだった!」

「……何処をどう間違えたの? ……いってらっしゃい」

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清楚系生徒会長の秘密の講師になりました。~ミステリーを楽しむためのラブコメ小説~ 夜野 舞斗 @okoshino

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