太平を夢見た、ひとりの男
- ★★★ Excellent!!!
鎌倉幕府末期。
河内の山中にひっそりと築かれた一城に、時代を変える男がいた。
楠木正成――幕府の被官にして、後に「悪党」と呼ばれるその男は、ただ家族を養い、病の兄を救うために辰砂を求めて山へ分け入った。
だがその一歩が、歴史の奔流を巻き起こしてゆく。
山人の姫との邂逅、辰砂を巡る流通の暗闘、渡辺党との駆け引きと血戦、そして六波羅との政治的取引。
正成が求めたのは、銭でも地位でもない。
ただ「大切なものを守るための力」だった。
それでも時代は容赦なく、彼を新たな戦場へと引きずり出す。
義理と打算が入り混じる京の政、無慈悲な命令、そして始まる「討伐」の連鎖。
幕府の犬か、逆臣か。それとも、乱世を生き抜く知恵者か。
この物語は、一城から始まり、やがて天下の趨勢へと連なっていく。