人の描く――かたちのないもの。
最後の二人の語らいがしみじみと胸に迫ります。
四谷軒さまの描く大楠公が素晴らしいのは他のレビュアーさんが仰っていただいてますので……恐縮ながら自分語りを。
祖母の家の近くに『遊歩堂』という古本屋が会って、中坊の頃、足繁く通ってました。
司馬遼太郎や海音寺潮五郎、柴田錬三郎……大御所たちの本に囲まれながら、今日はどんな英傑と、または無名の生き様と、どんな人生に出会えるのだろうか、とワクワクしていた日々を思い出します。
あれから幾星霜……
web小説で四谷軒さまの物語に触れて、久々にあの頃、自分を支えていた何かを思い出しました。
ありがとうございます。
そして、これからも四谷軒さまの思い描く、まだ、かたちがなくて描かれていない者らの想いを形にしていってください。
応援してます。
『窯変(ようへん) 太平記 ~ A Peace Maker's Memory ~』は、楠木正成という“歴史上の英雄”を、血の通った一人の人間として描き直す歴史長編です ⚔️📜
舞台は鎌倉末期、元弘の乱から建武の新政へと続く激動の時代―― 🐎🔥
千早城・赤坂城といった名高い戦いだけでなく、その裏で交わされる策謀、家族とのやり取り、仲間との信頼と軋轢が丁寧に描かれています 📖✨
教科書では「忠臣」「悲劇の名将」として一行で語られる楠木正成が、本作では悩み、迷い、時に毒づきながらも“より良い政(まつりごと)”を模索する男として立ち上がってきます 🧭🔥
印象的なのは、正成だけでなく、後醍醐天皇や足利高氏(尊氏)、六波羅探題らもまた、それぞれが“正義”と“打算”を抱えた人間として描かれている点です 📚🏹
誰もが完全な善でも悪でもなく、価値観の違いがぶつかり合うことで、時代が動いていく様子が鮮やかに浮かび上がります 🌊💥
その中で正成は「太平」を願う者として、どこまで戦い、どこで折れ、何を選ぶのか――そのプロセスこそが物語の核になっています 🌄⚖️
戦場の英雄譚に終わらず、「この時代を生きた普通の人々にとって、戦とは何だったのか」という問いが静かに流れているのも本作の魅力です 🤔🍃
タイトルにある “A Peace Maker's Memory” は、まさにその視点を象徴しているように思いました 🕊️🏯
楠木正成、そして足利尊氏。
戦国の三傑ほど有名ではないですが、様々な作品で目にする機会の多い人物。
そんな二人をまた別の視点から掘り下げたのが本作。
レジスタンス、ゲリラ戦の象徴のように扱われることの多い楠木正成であり、本作でもその戦術、戦略眼は冴え渡っていますが、それよりもキャッチコピーある通り「なぜ戦いに挑んだのか」──この点にこそ注目して頂きたい。
溢れる才能、しかしその才能に対して彼の野望、というか望みにあまりに穏やかであり、言動に対してあまりに繊細。
対しての足利尊氏。
その後の室町幕府が決して安定した政権ではなかった為、後の江戸幕府、徳川家康ほどの評価は得ていませんが彼もまた傑物です。
ですが、どうも明度の高いイメージはない。
他の作品で描かれている、器量が大きいけど不安定な部分がある──そんな尊氏とは別の英雄が見れることでしょう。
私はあまり歴史に詳しくないので、史実や歴史的背景を踏まえた考察については、他の方々のレビューを参考にしていただければと思います☆
ただ、予備知識がほとんどない状態で読み始めた私でも、楠木正成や彼を取り巻く歴史上の人物たちが、どのような利害関係や教養をもって対立し、あるいは協力しているのかが自然と理解でき、とても読みやすい作品でした。
私は中国ドラマが好きで、中国史を題材にした作品もよく観るのですが、本作には中国の歴史や思想に関連する描写が随所にあり、中国ドラマ好きの立場から読んでもとても楽しめました。
兵法の話などを通して、日本の歴史が中国史と深く関わっていることを実感できたのも、興味深かったです。
魅力的な登場人物が数多く登場しますが、やはり一番印象に残ったのは、正成と高氏の二人でした。
物語のラストで描かれる二人のやり取りは、本当に心に残る名シーンだと思います☆
日本史が好きな方にはもちろん、中国史や中国ドラマが好きな方にも、自信をもっておすすめできる歴史小説です。
鎌倉時代末、商業・交易は活発になる一方で、米の収穫に頼る「荘園公領制」の社会制度は時代遅れになり、破綻に瀕していた。
「荘園公領制」は、一つの土地に、京都にいる公家・大寺社、中小貴族から、それらの貴族が任じた現地領主、そして幕府が任命した地頭などの権利が重なり合う制度だった。それゆえに、そこからの収益をだれが取るかが不明確で、現地での実力での解決(=強いものが収益を取る)が行われ、それが一種の「緩衝材」となって制度全体の転覆を防いでいた。
しかし、それは紛争の多発を生み、幕府とその出先機関である六波羅探題(京都)の処理能力を超えた。一方で、紛争の多発は、これまでのルールにとらわれない暴力行使をこととする「悪党」を各地に生み出した。
そんな時代に、現在の奈良県南部から大阪府南部で、幕府に仕えながら貴重な鉱物「辰砂」(水銀・「朱」の原料)で収益を上げていた一人の下級武士が立ち上がり、やがて日本史に名を残す英雄になっていく。
『太平記』はもともと価値観をはっきり出して書かれた書物である(ある部分で英雄的に描かれていた人物が他の部分ではけなされるなど、複雑な性格はあるが)。それが詠嘆調に読まれ、江戸時代には人気を博し、明治から戦中昭和までの時代精神にも大きな影響を与えた。
この物語が「窯変」したのはそういう人物の描きかたである。登場人物の一人ひとり、英雄も俗吏もそれぞれの立場があり、それぞれの理屈があって動いている。それは、読者のいる場所から見れば、おろかだったり、わがままだったりもする。しかし、この「窯変」物語では、楠木正成はもちろん、後醍醐天皇も、足利尊氏(高氏)も、新田義貞も、高師直も、それぞれ、そのときどきの考えで、時代を見通したり、見通せなかったりしながら、ときには予想外の事態に直面しつつも投げ出さずに、懸命に生きている。
とくに、楠木正成については、「回天」の英雄でもないと同時に、純朴な河内の土豪というのでもなく、「知将」として、軍事だけでなく「先の読める人」として一貫して描かれている。それが、辰砂を収益源として持ちながら、悪党たちと死闘を闘い、幕吏のわがままにつき合わされ、ついに天皇とともに立ち上がることを選択するという経歴と結びつけて描かれている。この正成像はたいへん新鮮に思えた。
『太平記』は、本来は「来るべき足利義満時代の太平」を「予祝」して書かれたから「太平の記」なのだという。たしかに、義満こそが、その強大な力と権力操作の才能でその社会の矛盾にいちおうの解決を与え、曲がりなりにも中世の「太平」を実現した。
この「窯変」物語も「太平」への予感を祝して終わる。その「太平」がはかなく破綻することを私たちは知っている。しかし、それは、なぜ「太平」が望まれるのか、渇望されるのか、という問いを私たちに返しているように思われる。
百日紅の花が、百日、くれないに咲き続けるように、世の「太平」も続いてほしい。
その切実な願いが、この物語の登場人物たちの思いから伝わって来る。
ようへん 【窯変】:陶磁器の焼成中、火炎の性質その他の原因によって、素地(きじ)や釉(うわぐすり)に変化が生じて変色し、または形のゆがみ変わること。また、その陶磁器。火変り。(広辞苑 第七版より)
『平家物語』と並ぶ軍記物語の代表作、『太平記』。鎌倉幕府の滅亡から室町幕府の成立までを描いた作者不詳の名作ですが、室町幕府成立後も内乱状態が続いた混迷の時代を描いているだけに、そのタイトルに込められた「太平」への願いには共感を禁じ得ません。
この古典的名著には、時代を駆け抜けた数多(あまた)の男達が登場します。中でも一番有名なのは、鎌倉幕府の討伐軍を翻弄し、ついに回天の業を成し遂げた名将・楠木正成でしょう。そして本作も、この謎多き「悪党」が主人公です。
正成の出自には諸説ありますが、近年の研究では、元々鎌倉幕府(の京都出張所である六波羅探題)に仕える被官(=下級公務員)ではなかったかと言われています。本作もこの説に拠っていますが、元は幕府に仕える立場にありながら、何故その幕府を打倒する戦いに身を投じたのか? という謎が、本作で解き明かされていきます。
希代の名将が目指したものとは何か? そもそも彼は幕府を倒すつもりだったのか? さまざまな歴史の謎を盛り込んだ本作。「太平」を願うという原典の趣旨は変わらず、見事に「窯変」させた歴史長編、是非お楽しみください!
斬新な視点で描いた『太平記』です。
「悪党」楠木正成が鎌倉幕府の手先として活躍しながらも、その政治体制が世の中に合わなくなって既に限界であることに気づき、「よりまともな政(まつりごと)」を実現するために、後醍醐天皇に期待を寄せて、共に戦っていきます。
後醍醐天皇も、私利私欲の人ではなく、理想家肌の人として描かれています。
そして、足利高氏もまた、一筋縄ではいかない複雑な陰影を持ちながらも、明朗で人に好かれる快男児として魅力的に描かれています。
この話は「ここで終わるのか!」と驚く、しかし『太平記』というタイトルにふさわしい時点で完結しますが、正成や高氏、新田義貞などを描いた短編が複数書かれており、まとめて『太平記サーガ』を構成しています。
歴史小説好きなら、絶対に読んで損はしないと思いますので、ぜひ読んでください!
関西の方ならこの方の縁の方とか聞いたことはないでしょうか。私も友人に縁の方がいます。そして私の小説の主人公の母は「千剣破」でまんまこの方ゆかりの名ですし、後醍醐天皇さん南方下りの話も使わせてもらってます。なんとも心惹かれるテーマです。さて、時は鎌倉幕府末期。楠木正成が病の兄を救い家族を養うため、金剛山の辰砂に目をつけるところからこの物語は始まります。そこで摂津の豪族や六波羅役人との駆け引きと争い、そしてその結末が語られます。続いて紀伊の問題事への取り組みをおしつけられますが、その際の制圧が語られます。これらを通じ、六波羅と後醍醐天皇から信任を得るさまが丁寧に語られます。またバサラものの佐々木道誉、赤松則村らも出てきます。なんとも好きな人にはこたえられません。そしてと山の姫との結婚へ。一方、後醍醐天皇は、武力に頼らない行政・司法の実務を熱心に学び、自らの理想とする新たな統治のあり方を模索していきます。しかしすれ違いから生じる「正中の変」、そして広がる不信。物語は徐々に不穏に動き始め、乱世の足音が聞こえてきます。さあ、これから始まる南北朝の物語を筆者はどのように書いていくのか。歴史好きのあなた、後醍醐天皇、楠木正成が好きなあなた、ぜひこの物語の中へ。
『ようへん』を第五部まで拝読しました。
最後のページをめくり終えてから、しばらく本を膝に置いたまま動けませんでした。
カクヨムでこんな歴史小説が読めるとは思いませんでした。
一言で表すなら、将監の最期が、頭から離れなかったからです。
この作品で私が最も注目したのは、「約束は守られない」という法則が物語全体の規律である点です。
序盤で描かれる闘犬の餌を巡る理不尽な所領没収や、六波羅との交渉が無意味に終わる経緯など。
これらの積み重ねがあるからこそ、終盤で阿蘇治時が助命を約束したとき、私は「でも、この世界ではきっと……」と身構えていました。
そして、その予感は的中します。
OO(ネタバレ防止)が「そうなるとは限らんということを、このおれが教えてやろう」と言い残してOO(ネタバレ防止)される場面は正直いえば、情けない話ですが泣きそうになりました。 あれは正成だけでなく、読者である私にも向けられた言葉だったように感じたからです。
下赤坂城の攻防戦も強く印象に残っています。
敵が塀に取り付いた瞬間、その塀ごと前に倒れ、下から新しい塀が現れる。巨大な柄杓から熱湯が注がれるといった、 次々と繰り出される仕掛けに、私は戦記物を読んでいるはずなのに、まるでからくり屋敷を見学しているような高揚感を覚えました。
おそらく執筆する前に相当構成を推敲しないと書けない筆致です。
そしてその直後、城が炎上し、OOO(ネタバレ防止)が発見される。 「OO(ネタバレ防止)は死んだ」と思わせておいて、実は……の部分は緩急の設計が凄かったです。
正成という人物の描き方にも惹かれました。
軍神のような威厳ではなく、「やれやれ」とこぼしながら頭を掻き、妻の久子には押され気味。
けれど、その飄々とした佇まいの奥に、「新しい秩序を作りたい」という野望が見えたときは、感動に似た何かがわきました。
「今まで、お日様のように照らしてきた鎌倉や六波羅も、夜には見えなくなり、こうして星々の光が見える」
という台詞が、
ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』第二部 コゼットにて、ジャン・ヴァルジャンがテナルディエ夫妻のもとからコゼットを引き取った翌朝の場面の描写を思い出しました。
重厚な歴史を扱いながら、読み口は驚くほど軽やかでした。
第六部も是非読ませて頂けたらと思います。
※ネタバレ含むで感想を伏せたくなかったので、一部伏せ字にさせていただきました。
鎌倉幕府を崩壊へと追い込んだ武将といえば、誰を思い浮かべるでしょう?
鎌倉を攻め落とした新田義貞。
室町幕府を開いた足利尊氏。
そして、もう一人が楠木正成。
世に蔓延る悪党どもを相手に商売をし、あるいは反幕府として鎌倉幕府に争い、その戦い方にしても悪党そのもの。
しかし、楠木正成は本当はどういう人間だったのか。
そして彼は何のために戦い、なにを目指していたのか。
この物語では二百万という幕府の大軍と戦う楠木正成の等身大の姿がリアルに描かれています。
本当の悪党は誰か。ぜひ、その目で楠木正成という人物を、そして彼と共に戦った人々のストーリーを確かめていただきたいです。
『太平記』のヒーロー楠木正成と言えば、河内の土豪の出身、というのが、平成の楠木正成像なのではないでしょうか?
1991年放送のNHK大河ドラマ『太平記』で、武田鉄矢が演じた楠木正成のイメージは、その正成像を鮮明に印象づけたと言えるでしょう。
また、同ドラマでは、正成の妹(演:樋口可南子)を、猿楽一座の座長としてドラマ上で重要な役割を持たせて、能楽を完成させた観阿弥の母と位置づける事で、一層、楠木一族の土着性を印象づけていました。
鎌倉幕府の政治の枠に納まらぬ者たち、つまりは「悪党」です。
少なくとも、正成には、足利尊氏の様な鎌倉御家人というイメージは、薄いでしょう。
ところが、ここに、「楠木正成=得宗被官」説というものがあります。
得宗というのは、鎌倉幕府執権を輩出した北条氏の宗家の事で、その被官といえば、イメージとしては、長崎円喜・高資父子などの悪役イメージです。
斬新というべき、新・楠木正成像です。
本作では、この「楠木正成=得宗被官」説を前面に押し出して、新しい楠木正成像を描出しています。
描くは、カクヨム歴史ジャンルの旗手、四谷軒様。
これは、楽しむしかないでしょう。
鎌倉幕府末期。
河内の山中にひっそりと築かれた一城に、時代を変える男がいた。
楠木正成――幕府の被官にして、後に「悪党」と呼ばれるその男は、ただ家族を養い、病の兄を救うために辰砂を求めて山へ分け入った。
だがその一歩が、歴史の奔流を巻き起こしてゆく。
山人の姫との邂逅、辰砂を巡る流通の暗闘、渡辺党との駆け引きと血戦、そして六波羅との政治的取引。
正成が求めたのは、銭でも地位でもない。
ただ「大切なものを守るための力」だった。
それでも時代は容赦なく、彼を新たな戦場へと引きずり出す。
義理と打算が入り混じる京の政、無慈悲な命令、そして始まる「討伐」の連鎖。
幕府の犬か、逆臣か。それとも、乱世を生き抜く知恵者か。
この物語は、一城から始まり、やがて天下の趨勢へと連なっていく。