声を失った少女と、光を探す日々の物語。
- ★★★ Excellent!!!
<序章第1話を読んでのレビューです>
物語は、青く広い空とそよぐ風の描写から始まり、主人公・音羽オトハの内面世界をゆったりと紡ぐ。小春という猫の存在や草原の描写など、静かで日常的な空間に、主人公の孤独や心の揺れが自然に重ねられている。失声症というテーマを軸に、日常と心理描写を繊細に描き、読者は音のない世界を、言葉の代わりに心で感じる体験をする。
特に印象に残った文章は、「……ああ、震えていたのは、私の手だった。」である。ここでは、音を失った主人公が、身体のわずかな震えを通して自分の感情と向き合う瞬間が描かれており、言葉では表せない心の動きが、読者に静かに伝わる。短く簡潔な文章が、内面の緊張感や痛みを余白として残し、深い印象を与えている点が素晴らしい。
本作は、声を失った少女と、周囲の人々のやさしさや葛藤を丁寧に描く物語である。読者は、主人公の手や視線、呼吸の描写を追いながら、音のない世界に没入することができるだろう。読み進めるごとに、少しずつ回復へ向かう希望の光を感じつつ、日常のささやかな奇跡を楽しむことをおすすめしたい。