概要
昭和十三年、江田島。
将来の士官を育てる名門・海軍兵学校に、一室だけ「例外」の五人部屋があった。
そこに暮らすのは、射撃の名手、社交的な料亭の息子、元軍医、天才スイマー、そして華族出身の内気な少年・中山由樹。
なぜ彼らが同じ部屋に配属されたのか、理由は誰にも知らされていない。
周囲の噂や陰口のなかで、彼らは奇妙な絆と友情を育んでいく。
そんな日々の中、ふとした嘘をきっかけに、運命の歯車が静かに狂い始める。
それは、少年たちがまだ知らない、国家の影に繋がっていた──。
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- ★★★ Excellent!!!少年と青年の間で彼らは揺蕩っていた
海軍兵学校に集まった「例外」の5人組、遠い時代に生きた彼らにも青春があり、友情があり、そして隠された謎と残酷な運命が待ち受けていた。
昭和十三年という遠い過去に生きた彼らの、しかし揺れる水面のようにキラキラ輝く少年たちが成長していく過程が美しく鮮明に、そして時には残酷に詳細に描かれていました。
彼らの友情がとても眩しく、しかし話が進むにつれて彼らの姿は研ぎ澄まされて、ゾッとするほど冷たく立派に成長していきます。大人でも子供でもなかった彼らが、傷つき傷つけられ変わっていく姿があまりに細やかに描写されて、はっと息を呑んでしまいます。
海軍兵学校にいた彼らの命の輝きに目が奪われる、儚くも強烈な…続きを読む - ★★★ Excellent!!!海軍兵学校の青春、友情、ミステリー。
歴女な作者様の手掛けた作品だけあって、知識が深く、その時代と海軍の学校という特殊な空間の雰囲気がリアリティをもって伝わってきます。
しかも、作者さんは現役のお医者さんでもあるのですが、随所でその医学的な見識がミステリー部分に活かされているのが感じ取れます。
……という風に説明すると、専門知識がたくさん出てきて難しい話かと思われるかもしれませんが、大丈夫です。
テンポも良く、文章力に優れているので、とても読みやすいです。
専門的な知識についても、その時々で軽く分かりやすい説明があるので、読みながらちょっとした雑学が増えるのもこの話の醍醐味かも知れません。
主人公はまだ10代。同じ部屋の生徒…続きを読む - ★★★ Excellent!!!錨星の下のカルテ
日本が戦争へと向かう、昭和十三年の海軍兵学校。
広島県の江田島にあるエリート養成機関で、主人公の中山由樹は、なぜか五人だけが集められた「隔離部屋」での生活を送っています。
華族の家に生まれた彼が、この特殊な環境に疑問を抱くところから、物語は始まります。
明るい馬場、無口で射撃の腕がいい下、元軍医という経歴を持つ年長者の見林。
そして水泳の天才であった亀嶋がプールで死んだことから、物語はミステリの世界へと突入します。
彼の死をきっかけに、平穏な日常に隠されていた秘密が明らかになり、彼らは後戻りのできない状況に引き込まれます。
亀嶋の死の真相を追う過程で、見林が仲間の証言や日記の記述といった…続きを読む - ★★★ Excellent!!!泣かない塊が、海に溶けるまで
『わだつみに抱かれて』は、太平洋戦争という苛烈な現実の中で、それでもなお真心を咲かせようとする若者たちの物語です。ユキたち候補生が見上げる空、見つめる海――それらは美しく、けれどどこか哀しくて、読む私たちの胸にも、静かに波紋を広げていきます。
英語漬けの実習の中で交わされる笑い声、弥山の登山道で夢を語り合うひととき。ほんの束の間でも「個」として息をつく彼らの姿が、とても愛おしく映ります。そして、船上で手渡されたロケットペンダント。その小さな銀の記憶が呼び起こす、言葉にできない痛み――あの場面は今も心に残っています。
理不尽な時代にあっても、信じるものを手放さずに、自分の誇りを探そう…続きを読む