第2話・ジャスティススター誕生!
ああ、宏子、父さん来週から出張なんだ家のこと一人で出来るね父さんは中東の石油プラント建設の主任に選ばれたんだこれは単なる仕事じゃない会社の期待もあるし、現地の人たちの暮らしを豊かにするんだ分かってくれおまえにさびしい思いはさせるが金はあるし聞き分けなさい父さんは野蛮人どもの国で働かねばならんのだそれをなんださびしいからと言って駄々をこねてだいたい母さんもそうだが女はなぜこんなにも馬鹿なのだ父さんの立場が分からんのか私は社の命運を背負っているのだ女どもは貧民どもといっしょだなぜ我が社のプラント建設に反対するあんな荒地、何の価値もないなのに先祖伝来の土地とか言ってテロリストどもめ!俺たちは世のため人のためにやっているんだ宏子、そんなこともわからんのか!
和美、どこに行っていたなに、友達と遊びに馬鹿者がおまえはこの道場の一人娘ゆくゆくは有望な弟子の中から婿を取ってこの道場を継がねばならん身だそれを修行をおろそかにして遊びふけるとは何事だおまえに花だのワンピースだのなんかキラキラした代物だのは要らないし似合わんまったくいや分かっているおまえが友達の誘いを断れなかっただけというのは分かっている怒鳴って悪かったなおまえは父さんの期待によく応えてくれている俺は男の子が欲しかったんだがおまえは誰よりも男らしく育ってくれたこの間学校で喧嘩したと聞いた時もそりゃ一応叱りはしたが心の中では嬉しかったともおいこら泣くなせっかく褒めたというのに男の涙はな親が死んだときまで取っておくんださあ、修行だ今日サボった分を取り返すぞ大丈夫だおまえには才能があるおまえは誰より強くなれる。
双葉さんこのテストの点数はなんですか九十八点一問間違えているではありませんかそれもこんな簡単な問題で黙りなさい言い訳は許しませんだいたいアナタには集中力がないのですだから弓も外すのです聞いているのですかまったく隣の――さんの娘さんなんか有名私立高校に入るそうですよそれに比べてアナタはなんですかええ?だいたいこの前も弓道部をやめたいとか言って来て母さんはどれだけの恥をかいたと思ってるんですか顧問の先生からも部内で何かトラブルがあるようだと聞かされて母さん気が気じゃありませんでしたよなんですかなにか言いたいことがあるならはっきり言いなさいなんですって黙りなさい黙れと言っているのが聞こえないのですか聞き分けのない子ですねちょっとあなたあなたからもちゃんと叱ってやってくださいあなたが甘やかすから……
麻奈、出かけるわよ今日は教祖様の説法があるのなんてすばらしいんでしょううがとぅんゆふそうそうお布施を用意しないといけないわねちょっと二階から取ってくるわどうしたの一緒に来て?そうだわ斜向かいに新しい人が引っ越してきたから布教に行くわ付き合いなさいママ一人だと水をぶっかけてくる人がいるからねおさだこあ様の呪いあれ麻奈が一緒だとそんなことしてくる人がいないからたすかるわあの人もなんでおさだこあ様の教えを理解してくれないのかしらまあいいわあの人からもらった結婚指輪を質屋さんに持っていきましょうお布施になるわ麻奈どうしたの泣いて大丈夫おさだごあ様が全てを救ってくださるわ教祖様の言葉を聞いて従っていれば人間は幸せになれるの偉大なる存在こそが人間を導くのよさあ降りて出掛けまドンッ!ガラガラガラベキッ
[検閲削除]の子シネ死んじゃえ《雑草の花瓶》こっちくんなキモいちかよらないで[検閲削除]がうつるあいつの父ちゃん[検閲削除]なんだって無視しようぜえーみなさんこのクラスでいじめを行っている人はいますかいませーんそうですねいじめはよくないことですみなさんがそれを行っていなくて安心しましたこれからもそんなことは絶対に行わないでくださいね辻本さんお友達は誰もやってないそうですよあなたはお友達の言うことを疑うのですかお友達とは仲良くしなければなりませんよみくのやつ先生にチクったぞほーふくしようぜどうするおいちょっと来いオラオラ棒でたたけ箒の柄しかないそれでいいよオリャオリャなんだそれ雑巾の搾り汁バシャーアハハハハハハハハハハハハ[検閲削除]にお似合いだアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
……かくのごとく人間は醜い。千恵、お前だけはこの穢れた世界とは無関係に生きてほしい。ああ、お祖父ちゃんを許しておくれ。この世界を作り直すこともできないお祖父ちゃんを。
その高校の文化部棟には不可思議な名前の部活がある。複合文化研究会という。部員は六名。設立されたのは去年で設立者は当時一年生で現部長の針山千恵。顧問もなくメンバーが放課後に駄弁っているだけのようにしか見えないこんな部活がなぜ承認されたのか。そこには千恵個人の人徳もあったしこの文化部棟自体が針山家の寄付によって増改築されたからというのもあった。
だが、一番大きな理由は針山千恵が針山御大の孫娘でなおかつ御大にとって何よりも大事な存在であり、針山御大がこの街の住人――特に上層階級の人間にとって絶対不可侵の支配者であるということがあった。
針山御大は戦時下にこの街――当時は小さな農村だった――で生まれた。父親はこの辺り有数の富農であり、母親は結構由緒のある家の出だった。この街は空襲にも遭わなかったし、針山家は農家だったためか食料がたくさんあり、父親もそこそこ高齢で兵隊に行かずに済んだため、御大は幸福な少年時代を過ごし、戦後成人してから会社を興した。戦後の復興に合わせその会社は大きく成長、針山グループと言えば知る人ぞ知る大企業となった。
御大は若い頃いろいろな人に親切にしていた。そのうちの結構な人数が出世して政財界の要職を占めるようになった。彼はとてつもない影響力を持つようになったが、その権力を悪用することなく世のため人のために使い、高潔な財界人として名を成し、七十を目前にして一人息子に地位を譲って地元で隠居暮らしを始めた。地元であるところのこの街はほとんどの有力者が御大に世話になった人物であり、御大は旧友や親族や時間を作っては会いに来てくれる息子一家に囲まれて幸せな老後を過ごしていた。
それが失われたのは御大七十一、千恵六歳の年であった。御大のもとに遊びに来ていた息子一家は東京への帰路に就いたが、自動車事故により息子夫婦は死亡、千恵は奇跡的に助かった。この日を境に御大は変わってしまった。
御大は息子たちが車に細工をされ殺されたのだと信じ込んだ。それから彼が何を行ったのかは分からない。ただ確かなのは御大の周りにいた親戚一同が姿を消し、それから決して見つからなかったこと。そしてその親戚の内の一人と懇意にしていた自動車修理業者のところに夕方強盗が入って職員が皆殺しにされてしまったことだけだ。
このことについて御大が裏で糸を引いていると考えた者は多かったが、誰一人そのことを口に出すものはいなかった。こうして御大は不可侵の存在となり、利益と呪いを同時にふりまく祟り神となった。
今の御大はこの世の全ての人間を自らと孫を殺して財産を奪おうとしている存在だと思い込んでいる。そんな御大が唯一心を許し、愛しく思っているのが千恵であった。千恵は祟り神を宥める巫女であり、その意思を体現するものであった。
だから誰も、校長も教頭も彼女に逆らおうとはしない。千恵が小学校の頃、彼女が一学年下のクラスで起きていたいじめ問題に“介入”した結果、いじめを見て見ぬふりをしてきたそのクラスの教師と校長たちがどうなったかはこの街の全ての教育者たちが知っていた。
現在「ふくぶん」の部室には七人の人間がいた。一ノ宮和美は昨夜テレビで見た総合格闘技の試合について身振り手振りを交えながら語っている。髙橋双葉は笑いながらお茶に気を配り、三森麻奈はクッキーを食べながら和美の話に茶々を入れている。辻本未来は興味なさそうな顔をしながらも話に引き込まれており、星野宏子は部長の千恵と時々話している。部長の針山千恵は部長用の机に乗った旧式のパソコンの方を気にしており、そのパソコンの前では「ふくぶん」部員ではない田中優一がセットアップ手続きをしていた。
やがて、部室に西日が差し込む頃、物悲しい音楽が鳴り響き、生徒の下校を促した。
「おっと、こんな時間か。帰んないと父さんに怒られちまう。部長さん、悪いけどあたしは帰らせてもらう。じゃあ、また明日!」
「和美ちゃんが帰るなら、マナも帰ろっかな。双葉ちゃんは?」
「わたしも塾があるしそろそろ帰るよ。未来と宏子は?」
「う~ん、アタシも帰ろうかな。夕飯自炊しないといけないから。未来は?」
「……宏子、ボク、今晩も夕飯お呼ばれしていい?」
「いいわよ、準備と後片付け手伝ってくれるなら」
千恵は優一に尋ねた。
「どう?パソコンはもう少しかかりそう?」
「ええ、だいたいは済んだんですけど、やっぱり古い機種ですから。メモリとかはコンピ研の方で増設してあるから問題ないんですが、セキュリティーソフトの圧縮ファイルの解凍に時間がかかってて。これが済めばあとはちょちょいと済ませられるので先に帰ってくださって大丈夫ですよ。鍵は閉めて帰りますんで」
「そういう訳にもいかないわ。コンピ研の方に無理言って古い機材をもらってきたのは私の方だもの。先に帰るわけにはね」
宏子と未来は一緒に残ろうかと提案したが、千恵は「いいっていいって」と断った。
五人が帰り、部室にはパソコンのキーを叩く音と、そのファンが唸る音のみが響く。優一はパソコンにずっと向き合い、千恵は椅子に腰かけてその作業を見守る。
日が完全に落ちかけたころ、パソコンのセットアップが終わり、優一はパソコンをシャットダウンして「帰りましょうか」と声をかける。千恵も頷くと立ち上がった。
その時、窓の外から強烈な光が差し込み、窓の隙間から不定型な“何か”がにゅるにゅると侵入してきた。優一はカバンを抱えて立ちつくし、千恵は優一をかばうように仁王立ちする。不定形の侵入者は床の一か所に溜まるとぐにゃぐにゃ変形しながら話し始めた。
「針山千恵、そなたに話がある」
「何の用かしら?」
「わらわは宇宙人。そなたらの想像もつかぬほど遠い銀河からそなたらの想像もつかぬ方法でやってきた。わらわらの星の文明はそなたらの頭では理解できぬほど高度じゃ」
「で、その宇宙人様が何のようなわけ?」
「むー。もう少し驚くべきところなんじゃが。まあ、いい。わらわたちの惑星はほうぼうの惑星と友好的な関係を築いておる。そしてそなたらの惑星ともそのような関係を結びたいと考えておる」
「……なら、その私たちを馬鹿にするような言動をやめたほうがいいわよ」
「ふん。猿の文明を下等と呼んで何が悪い。この惑星の文明はわらわたちの文明と比べてあまりにもレベルが低すぎる。おまけに統合された政府もない。このままではわらわたちの惑星が外交を行う事すらままならん。そこで、わらわが力を貸し、統一政府を作ることになった」
「結局、植民地にするための傀儡政権が欲しいってわけ?」
「失礼な!わらわたちはそこまで落ちぶれておらぬ。その星の人間の好きなように治めればよい。……というよりそなたの好きにな」
「私はあなたのために統一政府を作ったりするほど暇じゃないわよ」
「力を貸す。この星の猿ごときを制圧し、支配するには十分すぎる力を、な」
不定形宇宙人は四足の獣の姿をとる。あくまで現住民が嫌悪の情を起こさないようにする仮の姿。大きすぎず小さすぎずコミュニケーションを取るのにちょうどいい大きさなのだろう。――その姿は猫だった。
その姿を見た途端、優一がカバンを置いて近寄り始めた。宇宙人は優一の方にまるで注意を払っていなかったので、気にせず続ける。
「どうじゃ?そなたが首を縦に振れば、この星はそなたの物じゃ。さぁ、どうする」
「……そうね。こんな機会、もうないものね。……いいわ。受けましょう、その話」
「ふふ、そなたならそう答えると思っておった。わらわの見込んだ通りじゃ。さて詳しい説明をする前にこの男が邪魔よのぉ。……ん?あの男はどこに……ひぃあああ!?」
宇宙人は悲鳴を上げる。優一が後ろから抱き上げ撫でまわしたからだ。宇宙人は暴れるものの、恍惚とした優一は的確に宇宙人を愛撫する。宇宙人は次第に気持ちよくなってきたのか抵抗をしなくなってきた。
「あふん。な、なんじゃこの男は!?」
「優一の奴は猫好きなんだけどアレルギーがあって家で飼えないのよ。ま、地球での住処として飼われてみれば?」
「こ、断る!」
千恵は妖しげに微笑んだ。
翌日の放課後、宏子、和美、双葉、麻奈、未来は部長から「大事な話がある」と言われた。「ふくぶん」の部室には西日が差し込み、吹奏楽部のラッパの音と何の掛け声か分からないくらい混ざり合った声が響く。
千恵はパソコンが鎮座する部長机に腰かけ、艶然と笑みを浮かべながら語りだす。
「ねえ、みんな。これから私たちは新しいことを始める。ついて来てくれる?」
「当たり前だ。針山先輩。あたしたちはみんなあんたに多かれ少なかれ救われたんだ」
和美が勢い込んで答える。双葉も麻奈も、未来も宏子も頷く。千恵は笑いながら「じゃあ、ついて来て」と言うと、部室の床にある配線メンテナンス用のハッチを開けてその中の梯子を下りていく。他の五人も続いて順番に降りる。双葉だけはそのハッチを怪訝そうに見たがそれでも一番最後に梯子を下りた。
梯子を下りた五人は口々に驚嘆の声を上げる。文化部棟の地下深くに体育館くらいの広さの空間が広がり、蛍光グリーンの液体で満たされたタンクが無数に並んでいた。タンクのうち入り口から見て二番目から六番目までの五つは空で、ガラスの扉を開いて誰かが入るのを待っていた。
「針山先輩、これは?」
双葉が尋ねる。千恵は笑みを浮かべて語る。
「人類には過ぎた力ってところかな。まあ、入ってみればわかるわ。大丈夫、安全性は私が確認済みよ」
和美が真っ先に一番梯子に近いところにあるタンクに入る。双葉はためらいながらその隣に、麻奈はにこやかに笑いながらそのまた隣に、未来は唾液を飲み込んでからその隣のタンクに入る。
宏子は千恵の方を振り返ってからタンクに入った。千恵はそれを笑顔で見送ると壁についた装置をいじった。
タンクの扉が閉まり、内部が一瞬で毒々しい緑の液体で満たされる。宏子たちは一瞬で意識を失った。
彼女らは共通の夢を見た。宇宙のかなたの超文明惑星。そこに住まう宇宙人のこと。そして今、自分たちはその宇宙人の科学力によって超人に改造されていること……。
次に五人が目を覚ました時、液体は排出されており、タンクの扉は再び開くところだった。そして、彼女らは全身を覆う黒いタイツに身を包み、そろいのベレー帽をかぶっていた。
「わー。なにこれなにこれ。はずいーっ」
麻奈が両手で胸をかき上げながら楽しそうにはしゃぐ。未来は戸惑ったように全身を触り、和美は呆然と立ち尽くし、宏子は何か思い悩むように立っていた。双葉が尋ねる。
「これは一体?」
千恵が答える。
「夢で見た通りよ。……ま、もう少し説明が要るわね。和美、ちょっと来て」
「あっ、はい、なんですか」
「これ、正拳突きで割ってみて」
千恵が胸の前に掲げたのはコンクリートの板だった。和美が慌てて首を振る。
「ちょ、ちょっと!木の板ならともかく、コンクリは無理ですって先輩!」
「大丈夫大丈夫、私を信じて」
和美は不安そうな顔をしつつも、決意を固め、流れるように構えを取ると美しい突きを放つ。
バガン!
コンクリートの板はあっさりと砕け散る。和美は正拳突きの姿勢のまま固まり、呆然と拳を眺める。コンクリートの欠片を床に払い落とすとニヤリと笑う。
「これが宇宙人の科学による身体強化よ。筋力だけじゃない。知覚力、戦闘センス……全てにおいてプロの兵士に勝るものよ。そしてこれはベースに過ぎない。私達はさらなる力を得ることができるの」
千恵は笑みを浮かべる。タンクの薄明かりが彼女の顔に陰影をつける。双葉が尋ねる。
「部長、あんたはいったい何をするつもりなんだ」
「決まっているじゃない。世界征服よ」
あっさりと千恵は言う。
「宇宙人にとっては統一政府さえ作ってくれればだれがどんなものを作ったとしても構わないそうよ。なら、私達で作りましょう、新たな世界を。より善き世界を。世界を好きなように変えられる。私達がこれまで恋焦がれてきたことじゃないの?」
千恵は両手を広げる。両手を広げてクルクル回る。
ほどなく和美が言った。
「おもしろいじゃないか。なぁ、双葉」
「……そうだな。この世界を変える。こんなに早くできるとは思っていなかった。……わたしも部長の決定に従おう」
「じゃあ、マナも従っちゃうよぉ!世界征服しちゃうよぉお!……未来ちゃんは?」
「……ボクは先輩に救われた。だから、きっと……先輩の作る世界はいい世界になる。ボクも従う。……宏子?」
「……ごめん、ぼんやりしてた。うん、先輩が何かやりたいなら。アタシたちは部員だし」
千恵は複雑な表情で宏子を見た。双葉は千恵に尋ねる。
「で、その世界を征服するっていうなら、軍団名とか何かあるの?」
千恵は再び笑みを浮かべる。
「ネオ・ヒューマン・オブ・ウルトラ・ガールズ・アソシエイション。略してネヒュガ。それが私たちの名前よ」
タンクは唸るような音を立てている。宏子がボソリと、しかし強い意志を込めて尋ねる。
「ねぇ、先輩。先輩はこれからどうやって世界を征服するつもりですか?」
千恵は口元に手を当て考える。
「うーん。まずはこの街を拠点として固めないとね。それには先立つものが必要ってことで、最初は現金輸送車襲撃でもしてみようと思うわ。ちょうどいい目標があるし」
和美が割り込んで尋ねる。
「で、先輩。さっき言っていた“さらなる力”ってのはなんだい」
「うーん。実際に誰かにやってみるのが一番なんだけど、ちょっと時間がかかるのよね。今回の現金輸送車襲撃のリーダーに施術したいんだけど……」
「なら、アタシがやります」
宏子が強い声で言った。千恵は笑みを消して宏子をジッと見た。宏子はゴクリと唾を飲み、千恵を見つめる。
千恵はニコッと笑うと言った。
「じゃ、もう一度カプセルに入って。宏子ちゃん、好きな動物は?」
「え?……ウサギ……ですかね」
「分かった。あと、現金輸送車を運転するための技術と、襲撃に使うためのバイク運転技能……あとは基本的な体術を……」
千恵は壁についた装置を操作する。タンクの扉が閉まり、瞬時に液体が満ちる。淡く光を放つ液体の中に強い光が生まれ、タンクが激しい駆動音を発する。
宏子は再び装置からのイメージを受け取る。体の動かし方、バイクや車の運転の仕方、そして、自らの身体が人間を超越した力を得たことが、イメージとして伝わる。
そして、タンクは扉を開く。宏子がその中から出てきた。和美たちは床に座っている。壁にもたれかかってポケットに手を突っ込んでいた千恵は宏子の方を見て、微笑みかける。
「一時間ってところか。外はもうすっかり暗くなっているでしょうね。宏子、心の中で変身と唱えてみなさい」
宏子はタンクから出て立ち上がると、小声で「変身」と呟く。その姿が瞬時に変化する。女性らしいシルエットを強調する全身タイツは白い毛皮に覆われ、頭部からはウサギの耳のような物がなびいている。
和美たちは「おおーっ」とどよめく。千恵は壁にもたれかかったまま宏子の方を見つめる。二人はそのまま無言で見つめ合った。
「で、宏子。どうする?現金輸送車強奪の計画を詳しく教えようか?」
千恵が問いかける。宏子はボソリと呟く。
「ごめんなさい、部長。でも……」
そして……宏子はタンクの一つを蹴りつける。タンクはメギャリと歪み、ガラスのような透明なパーツが、割れずにクシャクシャになる。唸る音が止まり、蛍光色の液体が散布される。
和美たちは呆然と、ただ見守る。宏子は……いや、ウサギ怪人、とでも呼ぶべきだろう。彼女は次のタンクを蹴り壊す。千恵はアハハハハハハと笑い声をあげ、それから宏子に尋ねた。
「どういうつもりかな、宏子?まぁ、答えは聞くまでもないよね。あなたは私たちを止めようとしている」
「はい、先輩は間違っています。これは……こんなのは正義じゃない!」
「アハ、それでこのタイミングを狙ったって訳ね、宏子。チャンスをうかがい、そして、自分が一番有利なタイミングを見計らった。見事ね、宏子。……でも、詰めが甘い」
千恵は右手をポケットから出し、ウサギ怪人に向ける。そして、呟く。
「変身」
千恵の姿が変わる。鋭い針に覆われた緑の怪人の姿に。そして右腕から何かが発射され、ウサギ怪人の身体に針が何本も突き立つ。傷口から火花が飛び散る。
千恵――サボテン女は笑う。
「甘い甘い甘い。私が自分で試さずにあなたたちに施術すると思うかしら。宏子――ラビットガールと呼びましょうか。とりあえず、安心して。今の私達は不死身よ。だから……私も遠慮なしに暴力に訴えさせてもらうわ。言っておくけれど、私は……強いわよ」
かかってこいとばかりにサボテン女は手首をクイクイと動かす。ラビットガールは少しためらった後、一気に距離を詰める。そして拳を繰り出す。
が、サボテン女はそれをたやすく避け、カウンター気味にラビットガールのお腹を殴る。ドスゥ、と鈍い音が響き、ラビットガールの顔が苦痛に歪む。
「ぐぅ……!」
「アハ。力尽くで私を止めるつもりなら、もっと頑張らないと!」
サボテン女はラビットガールの肩をつかむと、彼女の腹に膝蹴りを何発も叩き込む。ラビットガールはお腹を押さえてへたり込んだ。
「勝負あり、ね。それともまだやる?」
「……ぐ。」
サボテン女の降伏勧告にラビットガールは押し黙る。サボテン女は続ける。
「悪いけれど、宏子、あなたからその力を取り上げさせてもらう。その後は……まぁ、好きにすればいいわ。私達の邪魔をするのもいいけれど……ま、お勧めしないわ。できたら、協力してほしい」
まぁ無理か、とサボテン女は呟いて、ラビットガールの身体に手を伸ばす。
その瞬間、ラビットガールは床を蹴って飛び退くと、梯子に向かって走り出す。ポカンとしていた四人のうち、未来だけがそれに反応して、飛び出す。
「ちょ、ちょっと!宏子!先輩も!落ち着いて……」
未来は梯子の前に立ちふさがる。ラビットガールは、それを、払いのける。
ラビットガールの拳に弾き飛ばされた未来はタンクにぶつかる。ベコン、と音がして、タンクの外壁である透明素材がへこんだが、すぐに元の形に戻った。未来は「うぐあ!」と悲鳴を上げ、床に落ちる。……そして未来の姿は溶けるように消えた。
ラビットガールは短い悲鳴を上げる。だが、サボテン女が迫ってくるのを見ると梯子を駆け上り、「ふくぶん」の部室に出ると、窓を開けて外へ逃げ出す。部室のすぐ外の茂みにオートバイが数台隠してあった。ラビットガールは一刹那躊躇した後、そのうち一台を引っ張り出し、刺したままになっていたイグニッションキーでエンジンを起動する。そしてそのバイクに乗って利用者の少ない通用門から走りだし、高校から走り去った。
一方、地下室では未来が消えたことによって和美たちがパニックになりかけていた。サボテン女は変身を解除し千恵の姿に戻ると「落ち着きなさい」と言って無事なタンクの一つを指す。未来はその中にいた。間もなくタンクが唸りながら中の液体を排出し、扉が開いて未来が出てきた。
「ま、私達は不死身なの。ひどいダメージを受けたら即座にこのタンクに転送されて治療される」
千恵が言う。
未来が言う。
「だからって、宏子をあそこまで殴らなかったって……」
「ごめん。でもここは私達の生命線だから。ここで暴れられるわけにはね」
「で、宏子の奴、どうするんです。どっか行っちゃいましたけど」
和美が尋ねる。
「うーん。そうね。……みんな、宏子のことどうする。放っておくなら、私もそれでいいわ。ま、邪魔しない限りはね」
「……あたしは放ったらかしにはできません。できればこれからも宏子とは仲間でいたい」
「わたしも宏子を放置しておくことには反対です。宏子のことも心配ですし、それに……彼女を放っておいたら、きっとわたしたちのことを妨害してきます。宏子はやると決めたらやる子です。だから……」
「マナも宏子ちゃんを放っておくことには反対です」
千恵の問いかけに三人が口々に答える。未来もコクリと頷く。
その時、梯子段の上、「ふくぶん」の部室の引き戸が開く音がした。そして優一の声が聞こえた。
「遅れてすみません!ありゃ、下ですか。ごめんなさい、コンピ研に寄ったら、副部長がダイさんを離してくれなくて……」
優一が苦労しながら左腕に猫を抱えて梯子を下りてきた。優一が地下室の床に降り立ち、千恵が彼のことを説明しようとしたとき、優一の腕の中から猫が飛び降り、千恵たちを睥睨する。そして、口を開いた。
「ふん。どうやらトラブルがあったようじゃな」
千恵はため息をついた。
宏子は誰もいない家の中で蹲っていた。高給取りの父親が建てた無駄に広い一戸建ての家が、宏子を空虚な空間に閉じ込める。キッチンと間仕切りのカーテンに区切られたリビングダイニングのダイニングテーブルの下で、宏子は体育座りをしていた。電気は付けず、暗い室内で椅子の脚とテレビ台のキャビネットを見つめ、物思いにふける。キャビネットのガラス扉に宏子の顔が写っていた。
彼女の脳裏に浮かぶのは、友達の――「ふくぶん」の仲間との楽しい思い出。そしてその変貌。
宏子は結局、翌日学校を休んだ。空は暗く曇り、電灯をつけない室内は暗く、宏子はフローリングの床に倒れて寝ていた。悪夢がぐるぐると頭の中で回る。
インターホンが鳴る音で宏子は目覚めた。蛍光塗料の塗られた時計の針は六時を示していた。インターホンは繰り返し鳴る。
宏子は起き上がり、玄関に向かった。鍵を開けドアを開き、宏子は固まる。
「よ!ひどい顔しているじゃねぇか」
「まったく、無断で学校休んで。留年しても知らないぞ」
「というかねー、双葉ちゃんも和美ちゃんも未来ちゃんも、心配で、お昼ごはんも喉を通らなかったんだよ」
門扉の前にいたのは、和美、双葉、麻奈、そして
「宏子、ちょっと話せないかな」
未来であった。四人とも学校の制服を着ている。
「未来、無事だったんだね。良かった!……ごめん」
「ま、いいさ。ボクは大丈夫。だから気にしないで。……それより、宏子。本当にボクたちと、その……敵対するつもりなの?」
未来が問いかける。宏子は少し押し黙ってから答える。
「あなたたちが、悪いことをするのなら、アタシは協力できない。……邪魔させてもらう。……ねぇ、こんなことやめよう。また、部室で駄弁ろうよ。ねぇ……」
「それはできない。先輩はボクを……ボクたちを助けてくれた。だから、今度はボクたちが助ける、救う。ボクたちが世界を変えれば、ボクのような人間を救える。和美や宏子や麻奈のような人たちも。だからボクたちはやらなければならない。それが、先輩に対する恩返しだと思う」
「……違う。あなたたちがやろうとしているのは悪事以外の何物でもない。だから、やめて……」
「じゃあ、ボクたちの邪魔をするの、宏子?」
「ええ、あなたたちが悪事を働くのなら、アタシはあなたたちの敵になる」
宏子はきっぱり答えた。未来は「そう」と言ってうつむくと、バッと顔を上げて、宏子を睨み付けると叫んだ。
「なら、宏子!あんたはボクの敵だ!」
叫びながら未来の姿は変貌する。制服が掻き消え、ボディーラインが露わな黒のタイツに赤い毛のついた蜘蛛のような怪人になる。
怪人と化した未来は左腕を宏子に向ける。その腕から白い糸のような物が吹き出し、宏子を絡め捕る。宏子はそれを振りほどこうとするが、振りほどくことができない。
「さぁ、宏子!来るんだ!悪いけど、あんたから力を奪わせてもらう。もう、ボクたちを邪魔したりしないようにね。大人しくしていれば痛くはしない。抵抗するなら容赦しないよ」
そう言って、蜘蛛女と化した未来は宏子を引っ張っていく。和美と双葉、麻奈もいつの間にか戦闘服姿に変わっている。宏子は周りを和美・双葉・麻奈に囲まれて人気のない住宅街の裏道を歩かされる。
宏子が問いかける。
「和美、あなたも未来と同意見なの?双葉、麻奈、あなたたちも?」
双葉が答えた。
「ああ、わたしも先輩の理念には賛同している。……まぁ、宏子のことは敵に回したくないけどね」
だから、宏子にもネヒュガの仲間として、いっしょに戦ってほしいんだけどね、と双葉は締めた。
続いて麻奈が言う。
「マナは部長さんのことを信じているから。宏子ちゃんのことも好きだけど、マナは部長さんの味方だよ」
「ま、あたしもだいたい同意見だよ。宏子、今からでも遅くないから、あたしたちの仲間に戻りなよ。あたしたちみんな、宏子のこと大好きなんだからさ」
そう、和美が続けた。
宏子は押し黙った。何か考えながら、引かれていく。
やがて彼女らは雑木林の中にある空き地にやってきた。かつて火災で焼け落ちた住居の建っていた空き地の敷地の端には古い型のワンボックスカーが停まっている。
蜘蛛女はその車の方に宏子を引っ張っていく。
「さぁ!乗るんだ宏子!基地へ連れて行って、ラビットガールの力、奪ってやる!」
「……悪いけど、未来。あなたたちを止めるため、この力は渡せない!」
宏子は「変身!」と叫んでラビットガールに変身すると、力を振り絞って糸を引きちぎる。蜘蛛女がギリッと奥歯を噛みしめた。
「……そうかよ、痛い目に会うのがお好みか宏子、いやラビットガール!いいこと教えてやるよ!ボクたちは死ぬようなダメージを受けるとね、基地のタンクに転送される。そして、怪人はやられるときに爆発する――すっごく痛いらしいよ。そして、怪人としての力を失うんだ。
裏切り者のラビットガール、キミに決闘を申し込む!このスパイダーガールが、あんたを倒して力を奪う!」
「……未来……いいえ、スパイダーガール。その挑戦を受けるわ。ただし、アタシはもうネヒュガの怪人じゃない。正義の味方――ジャスティススターとして、あなたを倒す!」
ジャスティススターはそう言って構えを取る。スパイダーガールも攻撃態勢に入る。
と、和美が割って入り、ジャスティススターに向かい合うと、空手の構えを取る。
「まぁ、待ちなよ。前座を務めるのは戦闘員の役目。ま、あたしは負ける気はないけどね。来なよ、宏子、いやジャスティススター!あたしたちにケンカ売る気なら、空手の達人である和美サマがいることを忘れてもらっちゃ困るね」
和美は一気に距離を詰め、突きと蹴りで攻撃する。ジャスティススターは必死でそれをガードするが、ガードしきれず何発もクリーンヒットをもらう。
「どうした正義の味方サマ?戦闘員に苦戦しているようで、どうやってあたしたちを倒すというんだい?」
「く、このっ!」
ジャスティススターは防御をかなぐり捨て、攻撃に転じる。激しい打ち合いの末、バギッと音を立てて拳が相手を打ち砕く音がした。
拳の主はジャスティススター。その拳を顔面に受け、打ち砕かれたのは和美だった。
「あぷ……。あ、あたしが宏子に殴り合いで押し負けるなんてね」
鼻血を垂らしながら和美はフラフラと後ずさりながら、拳をかまえる。そして、ジャスティススターの顔面めがけ正拳突きを放つ。
だが、ジャスティススターは鋭さに欠けたその拳を避けると、アッパーパンチで和美の顎を跳ね上げた。
ベキリ!
顎が砕ける音がする。和美は大の字にひっくり返ると白目をむいて気を失った。その身体はたちまち消える。
双葉が躍りかかり組み付こうとする。だがジャスティススターはそれを躱すとカウンターパンチを叩き込む。
「ぶへっ!?」
双葉はその理知的な顔を歪ませ、吹き飛ばされる。鼻梁をへし折られ鼻血を流しながら、双葉は叫ぶ。
「麻奈!宏子の動きを止めろ!」
「オッケー♪」
麻奈は軽く答えると、どこかから拾ってきた角材でジャスティススターの頭を殴りつける。角材がへし折れ、ジャスティススターはよろめく。
双葉はその隙を逃さず、ジャスティススターに組みつく。そして双葉は叫ぶ。
「未来!わたしごとやれ!早く!」
スパイダーガールは少しためらった後、ジャスティススターに向けて右腕から痺れ毒の針を発射する。
「くっ!」
ジャスティススターはとっさに引きはがそうとしていた双葉を盾にする。散弾状に発射された針の大部分は双葉に当たったが、一部はジャスティススターに突き刺さる。
双葉は痺れ毒を受けながらもニヤリと笑い、麻奈とスパイダーガールに呼びかける。
「さぁ、今がチャンスよ!麻奈、あんたも宏子に抱きつけ。未来、その隙に攻撃しろ!」
ジャスティススターは双葉を蹴り飛ばす。双葉は「かはっ!?……こ、ここまでか」と呟いて地面に倒れ、消失する。
だが、その隙にジャスティススターは後ろから麻奈に羽交い絞めにされる。振りほどこうとするジャスティススターだったが、その無防備なお腹にスパイダーガールの拳が突き刺さる。
「ぐぷ!?」
ジャスティススターは強烈な一撃をモロに食らい、崩れ落ちる。背後にいた麻奈がすかさず地面に押し倒す。スパイダーガールはジャスティススターに馬乗りになって殴りつける。一発、二発、三発。そのたびにジャスティススターは悲鳴を上げる。何発ものパンチを浴びたジャスティススターは意識を朦朧とさせる。
「さあ、キミの負けだよ、ジャスティススター。痺れ毒もまわっただろう?「降参します」って言えよ。そうしたら、これ以上殴るのは勘弁してあげるよ」
スパイダーガールはそう言って降伏勧告した。
「アタシは……負けない!」
ジャスティススターはそう叫ぶと、渾身の力をもってスパイダーガールを投げ飛ばす。
「おわっ!?」
スパイダーガールは短い小さな悲鳴を上げて地面に叩きつけられる。
ジャスティススターは跳ね起きる。麻奈がもう一度地面に引きずり倒そうと向かってくるが、ジャスティススターにカウンターパンチをもらって目を回す。そこにおもいきり蹴りを食らい、
「ゲボッ!?や、やーらーれーたー」
と叫びながら倒れ、消失した。
スパイダーガールは立ち上がり叫ぶ。
「くそっ!まだ戦えるのか!だが!もうボロボロだろ、おまえ!ならここで倒してやる!」
そして左腕から糸の塊を発射する。
だが、ジャスティススターは横跳びでそれを避けると、跳ねるようにスパイダーガールに急接近し、その勢いのまま膝を彼女の顔に叩き込む。
ベキィ!
「ぶへぇ!?」
スパイダーガールは鼻血を吹いてふらつく。ジャスティススターはそこに左右の拳で追撃する。頬を殴り飛ばされ、スパイダーガールはフラフラになる。
スパイダーガールも反撃に出るが、これまでの蓄積ダメージがあるはずのジャスティススターの攻撃の手は苛烈で、スパイダーガールは次第に追い詰められていく。そして、ついにはカウンター気味にもらったボディーアッパーに吹き飛ばされてしまった。
ドサッ。
「ガ……ハ……!」
スパイダーガールは硬い地面に落下し転がった。ジャスティススターの拳を受けた腹部は激しく痛み、殴られまくったせいで意識は朦朧とする。彼女はお腹を両手で押さえ、苦しげに咳をした。
ジャスティススターは少し離れたところで構えを取る。彼女もまた荒く息をついていたが、スパイダーガールを見つめ「さぁ、早く立ちなさい!決着をつけてやる!」と叫んだ。
スパイダーガールは苦しげに息を吐きながら、手を地面について起き上がる。ジャスティススターを睨み付ける。
「くそ、まだだ、ボクはまだ……」
「未来……いえ、スパイダーガール。貴女はここで倒す。覚悟なさい」
「ふざけるな宏子!先輩を裏切るようなやつにボクは負けない!」
スパイダーガールは拳をかまえ、よろめきながらもジャスティススターに突進する。ジャスティススターもスパイダーガールに向かって走り出しながらパンチを放つ。
バギィッ!
ジャスティススターのパンチが再びスパイダーガールの顔を打ち抜く。体勢を崩したスパイダーガールにジャスティススターは連続してパンチを放つ。スパイダーガールは声にならない悲鳴を上げる。
「おぶ!うぶ!がふっ!」
スパイダーガールは口から涎を垂らし、ダメージを受けた身体から火花を飛び散らせる。
「これでトドメ!」
ゲシベキィッ!
「ぐえあ!?」
ジャスティススターのローキックがスパイダーガールの鳩尾に炸裂する。スパイダーガールの身体は吹き飛ばされ、雑木林の立木に激突する。木にもたれかかり、スパイダーガールはなんとか立っていたが、身体からは火花が飛び散り、立っているのがやっとの瀕死状態だった。
バチバチと音を立てて、スパイダーガールの身体から一層激しく噴出す。スパイダーガールは目を見開き絶叫する。
「うぎゃぁああああ!痛い!身体がぁ!よくもぉ!」
「……あなたが悪事を働く限り、何度でも倒してあげる。何度でも痛い目に会わせてやる!ネヒュガはこのジャスティススターが潰す!皆にもそう伝えろ!」
「ゆ、許さない……。裏切り者!こ、殺す!うぎゃあああああああ!」
スパイダーガールは火花を噴出しつつ、前のめりに倒れる。彼女の身体は地面と激突すると同時に爆炎に包まれ、消失した。
ジャスティススターは宏子の姿に戻ると、家に向かって歩きはじめる。そのまなざしは決意の色に輝いていた。
「ふくぶん」の部室は夕焼けで赤く染まっていた。猫の姿の大首領は不機嫌そうに怒鳴り散らす。
「ふん!裏切り者が出るとはな!大した人望よの!?」
それに対して千恵は余裕の笑みを浮かべる。
「私達「ふくぶん」のメンバー込みで私のことをスカウトしたんでしょう?……ま、任せておいてくださいな。ちょっとくらい障害があったほうが、成長があるってものですよ。……というわけでみんな、宏子ちゃん――ジャスティススターの妨害に負けず、作戦を遂行するってことで。いいわね!」
双葉が答える。
「宏子は難敵だけど、それゆえに攻略は燃えるね」
麻奈が答える。
「うんうん、部長さんの意見にマナも賛成だよ。あれだよね、宮本武蔵だよね。月に祈って七難八苦を与えたまえ~ってやつ」
未来が答える。
「宏子!あの裏切り者め!絶対に許さない!殺してやる!」
最後に和美が答える。
「……先輩、次はあたしを怪人にしてくれ。今回はスペック差で負けたが、同スペックなら、あたしが勝つ」
真っ赤な逆光の中、影となった千恵が口元を吊り上げる。
「……じゃあ、そうしましょうか」
部屋の隅で大首領用のキャットケージを抱えて、今日の晩御飯は何かなと優一は考えていた。
世界征服結社ネヒュガ ネヒュガ怪人vsジャスティススター ~あるいは「ふくぶん」活動記録~ s-jhon @s-jhon
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