歌姫　青春編

昭和四十年代の日本。
名門・桐原家の娘として育った桐原葵は、周囲から“理想のお嬢様”として振る舞うことを期待されていた。将来は良家に嫁ぐこと、それが当然とされる世界。しかしある日、ラジオから流れた若きシンガーの歌声に心を撃ち抜かれた葵は、自分も誰かの心に届く音を奏でたいと密かに夢を抱くようになる。

周囲の反対を恐れながらも、学校の音楽教師・花子との出会いが彼女を変えていく。戦中を生き抜いた花子の導きと、親友・楓との絆、姉や兄の応援を受けながら、葵は徐々に音楽の喜びと表現の意味を知っていく。

やがて夏祭りの歌唱大会で、葵は観客の前に立ち、ギター一本で自作の歌を弾き語る。誰かに望まれた人生ではなく、自分の意思で音を選び、心を込めて歌ったその日。葵は多くの聴衆を魅了し、審査員であったプロ歌手か…続きを読む