第28話
11月10日。
大安吉日の今日、葉月お姉様の結婚式の日がやってきた。
まるで二人を祝福するかのような、雲ひとつない晴天。
チャペルに集まった親族たちは、今か今かと二人の登場を待ちわびている。
お姉様の一世一代の晴れ姿を、一瞬たりとも目を離すまいと、私は扉だけを見つめていた。
そしていよいよ、その時は訪れた。
*
純白のドレスに身を包み、私は静かに息を吸う。
ついにこの日が来たのだと、胸の奥で実感する。
過去への後悔も、未練もない。
ただこの門出の時を、心から喜んでいた。
洋介さんと一緒なら、どんな苦しいことも、きっと乗り越えていける。
そう思えたから、私はこの結婚を選んだのだ。
これは、お父様やお母様が決めた道ではない。
私自身が、私の手で選んだ人生。
そろそろ式が始まる。
お父様の腕にそっと手を添えた。
ふと横顔を見上げると、そこには微かな涙の光。
全く、顔に似合わず泣き虫なんだから。
思わずくすっと笑い、ぎゅっと腕を引き寄せた。
ーー私は、貴方の娘で幸せでしたよ。
きっと、葵も同じ気持ち。
でもあの子の未来にはドレスじゃなく、音楽のスポットライトが似合うから。
だから今日は、私が葵の分までお父様に理想の娘を見せてあげよう。
あの子の幸せを、まだ理解できない貴方に。
大丈夫。きっといつか分かり合える。
だって私たちは、家族なのだから。
一歩、前へ踏み出す。
新しい人生の光と共に、扉がゆっくりと開かれた。
*
扉の向こうから現れたお姉様は、
まるでお伽話から抜け出した妖精のように、美しく、現実離れした輝きを纏っていた。
あまりの眩しさに、私は思わず息を呑み、顔を赤らめながら見つめる。
見た目の華やかさだけではない。
これから自分の足で未来を歩む、確かな意志の強さが、より一層お姉様を輝かせていた。
ああ、きっと。
これが、自分の人生を生きる人の光なのだ。
私もいつか、今日のお姉様以上に、自分自身を輝かせたい。
その夢を叶えるために。
文化祭で歌う、あの歌を――絶対に成功させる。
そう私は心の中で静かに、固く誓った。
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