第28話

11月10日。

大安吉日の今日、葉月お姉様の結婚式の日がやってきた。


まるで二人を祝福するかのような、雲ひとつない晴天。


チャペルに集まった親族たちは、今か今かと二人の登場を待ちわびている。


お姉様の一世一代の晴れ姿を、一瞬たりとも目を離すまいと、私は扉だけを見つめていた。


そしていよいよ、その時は訪れた。



純白のドレスに身を包み、私は静かに息を吸う。


ついにこの日が来たのだと、胸の奥で実感する。


過去への後悔も、未練もない。

ただこの門出の時を、心から喜んでいた。


洋介さんと一緒なら、どんな苦しいことも、きっと乗り越えていける。

そう思えたから、私はこの結婚を選んだのだ。


これは、お父様やお母様が決めた道ではない。

私自身が、私の手で選んだ人生。


そろそろ式が始まる。

お父様の腕にそっと手を添えた。


ふと横顔を見上げると、そこには微かな涙の光。


全く、顔に似合わず泣き虫なんだから。

思わずくすっと笑い、ぎゅっと腕を引き寄せた。


ーー私は、貴方の娘で幸せでしたよ。


きっと、葵も同じ気持ち。


でもあの子の未来にはドレスじゃなく、音楽のスポットライトが似合うから。


だから今日は、私が葵の分までお父様に理想の娘を見せてあげよう。

あの子の幸せを、まだ理解できない貴方に。


大丈夫。きっといつか分かり合える。

だって私たちは、家族なのだから。


一歩、前へ踏み出す。

新しい人生の光と共に、扉がゆっくりと開かれた。



扉の向こうから現れたお姉様は、

まるでお伽話から抜け出した妖精のように、美しく、現実離れした輝きを纏っていた。


あまりの眩しさに、私は思わず息を呑み、顔を赤らめながら見つめる。


見た目の華やかさだけではない。

これから自分の足で未来を歩む、確かな意志の強さが、より一層お姉様を輝かせていた。


ああ、きっと。

これが、自分の人生を生きる人の光なのだ。


私もいつか、今日のお姉様以上に、自分自身を輝かせたい。


その夢を叶えるために。


文化祭で歌う、あの歌を――絶対に成功させる。


そう私は心の中で静かに、固く誓った。

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