この世の全てにちゃんとした答えがあると思うな
- ★★★ Excellent!!!
小説を書く心得で「書きたいものを書け」と言われることがあります。
実際には書きたいものを、人に分かるように書くことが小説だと思うのですが、
こちらの話を読んだ時に、自由に書きたいものを書くのが非常に巧いなと感じました。
書きたいものを思いのままに書くことは、
ある意味で自分だけが理解する、我の強い、好き勝手な見苦しい文章になってしまう恐れもあることです。
こちらの話はまるで「今朝見たちょっと奇妙な夢を、友達に30分のお昼休みに話した」みたいな不思議な現実味があり、話し方の上手さがあります。
特徴的なのがあまり明確な「ラストの結論」が描かれないこと。
はっきりしたハッピーも、はっきりしたバッドも、あまり描かれてない不安感に、最初は「え? この話どういうこと?」って思うのですが、全てのスタイルをそれに統一することで、段々と読み進めてるうちに「ここの話はこういう話だ」とこちらも心構えが出来てきます。
そうすると、最後の結論はどうでもよくなり、とにかく「今度はどういう話なの?」ということがひたすら気になって来ます。
前後に繋がりもなく、
まるで日本各地で起こってる「ちょっと奇妙な体験談」を集めたかのよう。
陰惨な事件でもなく、
かといって事件に化けそうな危険さは潜んでいて。
私はホラーよりも、こういう日常にありえそうな「奇妙さ」が一番不気味で怖く、それゆえに好きだったりします。
人間ははっきりとしたお化けの恐怖もあるでしょうが、
全く得体の知れない「今、なんか少し変じゃなかった?」みたいな感覚もものすごく怖いと思うのです
とてもホラーやミステリーとして好みで、素敵でした!(ちょっと怖いけど。でもそれがいい)
小説を書きながらどんなラストにすればいいのかというのはいつも悩む部分ですが、こちらの話を読んでいると、
別に全ての物事にちゃんとした答えは用意されてなくてもいいわな! という気持ちにさせてもらえます。
この先一体どうなるんだ……という余韻を残すことで人の心をそこに繋ぎとめる技術。
とても面白い。