「無料」の先に潜む甘美な罠の物語
- ★★★ Excellent!!!
<「卵焼きの木」のみを読んでのレビュー>
奇妙で、しかしありそうな話が始まる。
“卵焼きの木”と名付けられたサイトは、ただの都市伝説や裏サイトではなく、品物が「無料」で届くという仕組みを持っている。設定はシンプルだが、教師と生徒の母親との会話から静かに立ち上がる不穏さが、読む者の想像を誘う。
特に印象に残ったのは、教師が初めて無料の商品を受け取った場面の一文。
「梱包を開けて、本物だとわかったときには小躍りした。」
この一文は、日常にありえない異物が差し込まれた瞬間の喜びを、あまりに自然に描いている。読者もまた同じく「小躍り」してしまう。ここに物語の危うさと快楽が凝縮されている。
本作は、都市伝説的な恐怖と現実的な欲望のあいだを、軽やかに行き来する。ホラーとして読むのもいいが、むしろ人間の欲の可笑しみを楽しむのが正解かもしれない。ページを閉じるとき、あなたもきっと「卵焼きの木」を検索したくなっているはずだ。