稲のそだつ春から夏、艮の方角より吹き寄せる、冷たく湿った風の流れを「やませ」と呼ぶ。凶作をもたらすそれは「闇風」とも呼ばれるという。それが流す灰色の雲のなかを泳ぐ巨大な影たちは、果たして何物だったのか。ああ⋯⋯いま、闇の風がおりてくる⋯⋯。
脳裡に描かれる光景の圧巻。曇天の渦巻く雲間から覗く巨大な魚の鱗。青黒く灰色に光りを帯びて、地上へと海面へと降りて来る、その様を。 轟く嵐の予感。海と空との領界に置き去りにされる事は恐怖であるのか。それとも一瞬の愉悦であるのか。 夜魔がくる。曇天と荒濤の底深く翻弄される。
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