追伸

失われた数字

 3の2乗。8の次にたたずむもの。肩に残る注射痕の数。人類の不完全さを示す数字。10ではない。しかれどそれが何か思い出せない。8の次は10のはずだ。間違いない。赤ん坊でもわかる事実だ。けれど、確かにその間には があったはずなんだ! わからない! わからない! 数字の数は012345678……確かに10なんだ! それ以上でもないしそれ以下でもない。けれど……なぁ君らは知ってるか? 数字は全部でいくつだ? 10より一つ若い数字はなんだ? わかってる、これは一方的な手紙だ。応えなど得られないことは知っている。でも知りたいんだ。ああ! その数字はおそらく我々の世界から永遠に失われた。確かに以前はあった。しかし人々がロアを信じ始めてから消え始め、ある夜完全に溶けてなくなったんだ。一般的な指の数は8本で、8は永遠と宇宙を表す。聖数であり原子核の最も安定な陽子または中性子の数だ。太陽系の惑星の数であり、それはこれまでもこれからもだ。……待て、もしかして君らの世界には惑星が10あるのか? いや、この聞き方は違うな。8より一つ多い? もしそうならまだ大丈夫。ロアは闇の中から見ているだけだ。けれど何らかの理由でそうでないなら――気をつけろ。ロアは闇から出でて君らの背後に立っている。ほら! 今にも腕を掴まれるぞ! 奴は人々に細切れになった自分の存在一つ一つを信じ込ませ認識を書き換える。そうやって信じられることで力を得て を奪ったんだ。その 番目の惑星はまだ物理的に存在してるか? もし惑星の定義が変わっただけなら喜べ、手遅れではないがソファで寝そべっている場合でもない。今、我々の世界ではおかしなことが起こっている。わらう水晶に地から天へと落ちる滝、三つ目の盲目に口のない魚。今まで海の上を歩く動物なんていたか? だが一番恐ろしいのは触ると人の内臓を引きずり出す植物でも穴の開いた八裂プレートでもない。人々がそれを疑問に思わないことだ。さっきの海の上を歩くj・づqなんて先日水族館で公開されてから大人気、客足が絶えない。そうだよ、噂が事実になっちまってるんだ! ロアのお望み通りってわけだ! くそったれ! ……最近は街中で8を見る機会が減ったように思う。このまま人々がロアを信じ続ければいずれ8も失われるかもしれない。そしたら次は7だ。お次は6、54321……0。0になるとどうなる? すでにカウントダウンは始まっている。気をつけろ! 見知らぬ別世界の誰かよ。何らかの方法でこれが君らに届くことを願っている。


    決してロアを勝たせるな。



              多指症の男より

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ロア関連資料――書簡 海中図書館 @established1753

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