これぞ『エピソード0』の面白さ。徐々に平穏が壊れゆく、運命の転機の物語

 先がどうなるのだろう、とあれこれ想像させられ、読む手が止まらなくなりました。

 本作は、「ギリシャ物語Ⅰ」の前日譚に当たる作品です。
 本編の主人公であるティリオンは、ある時にアテナイの国を脱出し、追われる身となります。

 その脱出・逃亡に至るまでの日々が描かれるエピソードなのですが、序盤の段階ではティリオンはとても平和な状態で暮らしており、周囲にいる『剣の師匠』であるフレイウス(本編ではティリオンを捕まえようと追跡する役)たちと、とても良好な関係を築いています。

 この幸せな状態から、一体どうして脱出・逃亡するような事態に?
 そんな疑問が浮かんだ瞬間、もう完全に「沼」にはまりました。

 やはりこれぞ、「エピソード0」の面白さだ! と自信を持って言えます。

 「後々にある種の悲劇・対立状態」になることがわかっている主人公。その主人公の身にこれから何が起こり、物語はスタート地点に到達するのか。

 「ベルセルク」のガッツとグリフィスでもいいし、「喰霊‐零‐」の黄泉と神楽でもいい。「とても信頼し合っていたはずの仲間」が、「後に対立する」という構図が提示される。要するに「この先どうやって、この関係がこじれるの!?」という感覚は、ある種の怖いもの見たさにも通ずる興奮を与えてくれます。

 本作はそういった「平穏から不穏へとじわじわ変転する緊張感」をしっかりと味わわせてくれ、読者を最後まで楽しませてくれることでしょう。

 更に、ギリシャの貴族男性の間にあった「ある習慣」についての知識を得ることもでき、「OH! なんと! なんと!」と激しく心を揺さぶられることになりました(第八章に注目!)。

 勉強にもなり、そして圧倒的なリーダビリティとキャラクターの魅力を味わえる、珠玉の作品。激しくオススメです!

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