深い混沌と、その先にあるもの。

アルコール中毒を患い、自分自身の中の闇から出ることができず…寧ろ出ることをせずに、泥の中に座っているような主人公、田端カオル。この物語は、彼女がその重く粘りつく泥の中を彷徨う日々を描きます。

泥の中で出会う、やはり泥の中を彷徨うような人物達。それぞれの出会いと、その結末——重く沈み込んだカオルの目と脳を通して映し出される世界の色に、窒息するような苦しさを覚えます。

この作品の魅力は、時間の中を彷徨うカオルの心の動き、その苦しみや重さが、非常に繊細な美しさを持って描かれていることです。逃れることのできない気怠い哀しみが、高い表現力により放ち始める静謐な輝き。読み手は気づけばその魅力にずるずると引き込まれていきます。

そして、泥の底を覗いた彼女が辿り着く場所とは——。

深い混沌と、それを突き抜けた先にあるもの。
生きていることの哀しさ、苦しみの深さ……そこにやがて差し込むであろう一筋の光を見るような、深く複雑な色合いを醸す物語です。

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