3年後、ナギサちゃんと、一緒に死ぬ。来年から、高校へ通う。
2つの約束を果たすために、避けては通れない障害を、失念していた。
「もう……むり……っ!」
私はノートの上に突っ伏して、自嘲気味に口角をゆがませた。
「恵巳さん……」
ナギサちゃんから、困惑の声。
「こんなのも解けないの……?」
「やめてっ! 言わないでっ!!!」
大体、カリキュラムが変わってるしっ!
歴史も改変されてるじゃん!
もう、私が中学生だった時とは別物だよ!
「偏差値50の過去問なんですけど……」
「ナギサちゃん、覚えておいて……。大人は、子供だったことを忘れるの。仕事だと、計算なんて全部パソコンがやってくれるし、資料に全部書いてある。お仕事に役立つことなんて、全然ないんだから」
「あ、はい。そうですね。恵巳さんも頑張ってるんですよね」
過去一冷たい視線を感じる。
私は、勉強が苦手だ。
高校選びも、会社選びも、目標がなかった。
前に進まないといけないから、足が届く範囲へ向かっただけ。
「もっとレベルが低いところにしない?」
偏差値55の私立は、つらい。
「治安がいいのと、制服がかわいいんですよ。それに、恵巳さんが馴染みやすいと思います」
「……そこまで考えてるんだ」
「はい。恵巳さんと素敵な高校生活を送るため、です」
気持ちは素直に嬉しい。
けど、胸の内が、毛虫みたいにモヤモヤする。
今って、流されてるだけじゃない?
でも、私の生き方って、こうだよね?
答えが出ないまま、受験勉強は、佳境に入る。
紅葉狩り。
ハロウィン。
クリスマス。
正月。
雪。
気分転換をしながらも、参考書を解き、過去問集に溺れ、シャーペンの芯を折り続けた。
受験会場で、私は『みにくいアヒルの子』を思い出す。
周囲にいるのは、中学生ばかり。
天地がひっくり返っても、アラサーは浮いている。
震える指で筆記用具を広げると、一枚の付箋が混ざっていた。
『ふぁいとっ!』
ナギサちゃんからの、メッセージ。ポップなうさぎからの、応援だった。
「……うん、ふぁいとっ」
緊張も焦りもほぐれて、深く息を吐く。
周囲を気にせず、集中できる。
問題は、難しくない。迷わない。解ける。
だけど、時間に追われるのが、しんどい。
何十回と腕時計の針を確認しながら、鉛筆を走らせていく。
自分の書き文字に吐き気がするほど、答えも、名前も、念入りに確認した。
もうすぐ、終了時間。
一瞬、思考がよぎる。
名前を、消してみたい。
落ちたら、ナギサちゃん、どんな顔をするかな?
私のこと、失望する? 嫌悪する?
でも、ダメだよね。
ダメ。
わざと裏切るなんて、しちゃいけない。
決めたんだもん。
一緒に死ぬって。
ナギサちゃんに見捨てられたら、死ぬ理由がなくなっちゃう。
きっと、ストレスでおかしくなっているだけ。
冷静になろう。
そして、合格発表、当日
若々しい中学生たちが抱き合い、塾講師が叫び、空気が熱を帯びていく。
人生の分岐点。
アラサーの私は「ちょべりぐ!」と叫び、安堵するナギサちゃんの腕からは、4本の青薔薇が、咲いていた。