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改稿前原稿保管庫 第5話 受けた【薔薇食む】

 3年後、ナギサちゃんと、一緒に死ぬ。来年から、高校へ通う。

 2つの約束を果たすために、避けては通れない障害を、失念していた。


「もう……むり……っ!」


 私はノートの上に突っ伏して、自嘲気味に口角をゆがませた。


「恵巳さん……」


 ナギサちゃんから、困惑の声。


「こんなのも解けないの……?」
「やめてっ! 言わないでっ!!!」


 大体、カリキュラムが変わってるしっ!
 歴史も改変されてるじゃん!

 もう、私が中学生だった時とは別物だよ!


「偏差値50の過去問なんですけど……」
「ナギサちゃん、覚えておいて……。大人は、子供だったことを忘れるの。仕事だと、計算なんて全部パソコンがやってくれるし、資料に全部書いてある。お仕事に役立つことなんて、全然ないんだから」
「あ、はい。そうですね。恵巳さんも頑張ってるんですよね」


 過去一冷たい視線を感じる。

 私は、勉強が苦手だ。
 高校選びも、会社選びも、目標がなかった。
 前に進まないといけないから、足が届く範囲へ向かっただけ。


「もっとレベルが低いところにしない?」


 偏差値55の私立は、つらい。


「治安がいいのと、制服がかわいいんですよ。それに、恵巳さんが馴染みやすいと思います」
「……そこまで考えてるんだ」
「はい。恵巳さんと素敵な高校生活を送るため、です」


 気持ちは素直に嬉しい。
 けど、胸の内が、毛虫みたいにモヤモヤする。

 今って、流されてるだけじゃない?
 でも、私の生き方って、こうだよね?

 答えが出ないまま、受験勉強は、佳境に入る。

 紅葉狩り。
 ハロウィン。
 クリスマス。
 正月。
 雪。

 気分転換をしながらも、参考書を解き、過去問集に溺れ、シャーペンの芯を折り続けた。

 受験会場で、私は『みにくいアヒルの子』を思い出す。
 
 周囲にいるのは、中学生ばかり。
 天地がひっくり返っても、アラサーは浮いている。

 震える指で筆記用具を広げると、一枚の付箋が混ざっていた。
 『ふぁいとっ!』
 ナギサちゃんからの、メッセージ。ポップなうさぎからの、応援だった。

 
「……うん、ふぁいとっ」


 緊張も焦りもほぐれて、深く息を吐く。
 周囲を気にせず、集中できる。

 問題は、難しくない。迷わない。解ける。
 だけど、時間に追われるのが、しんどい。
 何十回と腕時計の針を確認しながら、鉛筆を走らせていく。

 自分の書き文字に吐き気がするほど、答えも、名前も、念入りに確認した。

 もうすぐ、終了時間。 
 一瞬、思考がよぎる。
 
 名前を、消してみたい。

 落ちたら、ナギサちゃん、どんな顔をするかな?
 私のこと、失望する? 嫌悪する?

 でも、ダメだよね。
 ダメ。

 わざと裏切るなんて、しちゃいけない。 

 決めたんだもん。
 一緒に死ぬって。
 ナギサちゃんに見捨てられたら、死ぬ理由がなくなっちゃう。

 きっと、ストレスでおかしくなっているだけ。
 冷静になろう。
 
 そして、合格発表、当日

 若々しい中学生たちが抱き合い、塾講師が叫び、空気が熱を帯びていく。

 人生の分岐点。

 アラサーの私は「ちょべりぐ!」と叫び、安堵するナギサちゃんの腕からは、4本の青薔薇が、咲いていた。

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