夕方の通せん坊横丁1650丁目は、今日も静かな賑わいをみせていた。
男は女に、女は男になりきらなくてならないというルールがあるBARケセランパサランのマスター横水洋子もまた、二日酔いもなんのそので開店準備を着々と始めている。今ではすっかりご意見番として威厳を放つ彼女であるが、若かりし頃は絶世の美女であり、この地区においての初恋ハンター兼筆下ろし職人だったのだという。
噂が5Gで駆け抜けるこの通りにおいて、彼女が最近、新規の客と何だか良い雰囲気だと言うのは、この地区におけるトレンドの一つであった。
この地区はとにかく歪んでいる。
例えばそれは、横水洋子の生態だけではなく、Barから10と8.2軒隣にある東雲不動産ひとつとってもそうなのだ。
店内はいつ見てもがらんどうとしている。比喩ではなく、人っ子一人どころか、何もない空間にしか見えない。だが、ひと度その自動ドアが開き、店内に入ると、まるで、あなたの来店を去年からずっと待っていましたよと言わんばかりの東雲敦子が無駄に重そうな机の向こうから「こんにちわ!」と元気に応対してくれる。けれど、誰もそれに疑問を持たない。そういうモノとして処理されている。
そんな、この世の特異点のような地区の臨界点のようなBARケセランパサランの裏手に、こじんまりとした絶滅危惧種のタバコ屋がある。
その名も、本条本店。
一体全体、ただのタバコ屋がどうして本店と銘打っているのかは、よく分からない。よく分からないままやっぱり誰もがそれを受け入れている。世の中とは、得てしてそういうものかもしれない。
そんな具合で意味がなく、とりとめのない思考に、今まさに支配されているのが、この店の主、本条仁坂萌実である。なぜ、名字が二つ並んでいるのか。それは両親のただの趣味であり悪ふざけであった。よくもまあ役所がOKしたものである。
「おい、萌実! いつもの赤いやつくれ!」
こじんまりした店の、さらに狭い店舗部分のなかで、ダラダラとスマホをいじっていた萌実に、大声をかけたのは、年端もいかない野球帽をやや斜めに被った少年であった。右の前歯がやや欠けているのは、5軒隣に位置し、誰もがヤブ医者と呼ぶ安斎歯科の医院長、安斎利宗その人による所業である。
「うっせぇわ。だいたい、お前にタバコ売れないって何回言ったら分かんの? 聞いてる? 日本語通じてる? ヘロー?」
萌実は約半年貯めたガチャ石を解き放ったにも関わらず、見事にピックアップガチャをすり抜け爆死した不機嫌な顔で、少年に言葉をぶつけた。
「いいじゃん。別にオレが吸うわけじゃないし、お父さんのなんだし、お金払うし。ほら、600円。あと、パンツ見せて」
この世の終わりである。
「クソガキ、バカガキ、アホガキ、ファッキンクソガキ。見たかったら100倍持ってこい」
「萌実のパンツにそんな価値ねーよ! ほら、タバコ! オレ帰ってアニメ見なきゃいけねーんだから。早くしてくれよ」
クソガキに女としての価値を判断され、挙句に価値なしとされた萌実は、棚にある赤マル(ボックス)をわし掴むと、窓の外にいる小学生に向けて、ではなく、全力で明後日のほうへ投げつけた。
「拾ってとっとと帰れ」
そう言うと同時に、萌実は小窓のガラスをピシャリと閉めた。クソガキは、わーわーと汚い言葉を叫びながらタバコを拾いに行った。
このように、本当に人間とはどうしようもない生き物でなのである。と、狭いタバコ屋の店内の片隅でいた私は思った。
私は猫である。平面に生きる猫である。
そして、どうしようもない人間の中でも、さらに最下層にいるようなこの女が、私の主である。この主は、やる気もなく、気のままなくせに、とかく多面的に毎日を過ごしている。
ペット禁止とされていた本条家において、私が公認の招き猫として過ごせているのも、そんな主の特異まれな人たらし術によるものではあるのだけれど、まあそれは長くなるので割愛することにする。
あ、虫! 虫虫虫虫虫!!!
いや待て。落ち着け私。私は平面に生きる猫である。狩猟本能のままに生きるなんて、そんなはしたないことは......ニャー!!!!
チッ。逃したか。命拾いしたな蝶々よ。次はないと思え。
そんな可愛らしい一時の獣化を晒していた時、私の前に一つの影が現れ、小窓をトントンと叩いた。
件の横水洋子である。
「萌、タバコおくれ」
そう言いながらも、横水はすでにタバコを一本吹かしている。
「洋子さん、いい加減カートンで買いなよ」
ガラっと小窓を空けながら、我が主はまたしてもタバコを、今度はしっかりと横水の懐へとひょいっと投げた。
「小娘はこれだから分かっちゃないねぇ。昔ながらのご近所さんと毎日やりとりすんのがいいんだろうぉよい。それが侘び寂びってもんだろうが」
「ふつー、小娘は侘び寂びとか知らんし」
「はっ。そんなんだからいい歳こいて男の1人も出来やしねぇんだろうがよい。あたしが17才の時分っていやぁ」
横水の豪華絢爛な昔話などまるで聞く耳を持たず、主はスマホの画面に視線を戻しながら、私に話しかけた。
「50年以上前の話とか聞くだけ無駄だって。っていうか、彼氏くらいいたことあるし。おばあこそ何にも分かってないよね。ねー、猫ちゃん」
そう言いながら、主は私に向けてキスをするフリをしながらチュッチュと音を立てている。
我が主ながら、ほとほと心配である。何せ、17才にもなって、ヌイグルミに話しかけているのだから。
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ほいさへいさ。
いつもの如く思いつきでダラダラ書いたものです。ダラダラ書いていたから何がなんだかです。続きを書く予定は微塵もありませぬ。
そして、夜中にとんでもなく腹ペコリンになったのでカップ麺を食べようとお湯を注いだら、すっかりそのことを忘れてしまい、1時間後の今、途方に暮れています。誰かタイムマシーンを早急に作ってくれませんかね?
無理ですか? そうですか。
ネコ型ロボットでも可ですよ?
無理ですか? そうですよね。
じゃあ、もういい!!
こんなに頼んでるのに!!
という、昨今SNSでよく見るまるで理解の出来ない逆ギレ風の何かを書き残して、私はカップ麺の処理をしようと思います。探さないでください。
ではまた。