帝国貴族が正式な婚姻を結ぶのは原則として一階層上から一階層下まで。特別な能力や功績がある場合は二階層差まで。「特別」とは、魔法の才の場合は「普人は第五魔匠士以上か、森人は恩寵魔術士か」。リナリア様はショウくんを男爵籍相当(降爵した「元」含む)と期待しています。
森人貴族は複数の森人妻を娶ることが一般的です。但し妻が双方ともに貴族籍の場合は、壱妻の変更は優秀な魔法能力者を生む等の強い理由が必要です。位階が高い方が自動的に壱妻とはなりません。従って貴族に見えるカレンが「壱妻です」と告げる方が面倒な事態を招きます。
カレンがこの世界の森人ならば、カレンの方から旧王家のお姫様に壱妻の座を譲る忖度をします。でも森人社会では「壱妻の座を奪った」という花粉が飛ぶことは避けねばなりません。アステリデ家はカレンの実家に対して、単に引き立てるに留まらない、難しい対応を迫られるのです。
ここでショウくんが「妻は平等」と告げて「壱妻は空席」と誤解されたことが効いてきます。カレンが壱妻でないなら、ショウくんは貴族籍でカレンは貴族籍ではない可能性も。この場合は後から嫁いだ貴族籍女性が壱妻となることに障害はなくなります(カレンは納得するとこの世界では見做される)。
空席宣言は「上昇志向が強くて上方婚を狙っている」と悪く思われかねないので普通はしません。でも彼がそのような人間でないことは明らか。そして未婚の貴族令嬢の前での空席宣言は誘いとも取られます。リナリア様の「花開き」を二重に後押しする意味を持つことになったのです。
ちなみに普人平民社会では、このような機微は誤解されています。「登仙楼」で「壱妻ではない」発言に「さすが!」と反応されたのは「もっと妻が欲しい?」「更に妻が増えても満足させられるということ?」という下世話な「森人は爆発して吹き飛べ!」案件と取られたからなのでした。
※次回の更新は10/24(土)を予定しています。