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【魔導士物語】第二十七話「野営地」を掲載しました

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そんなわけで、第二十七話です。

本文では省略しましたが、ハンナは村人たちから盛大な見送りを受けました。
何しろ彼女のお陰で、今年の年貢が全戸一割も軽くなるのです。感謝するしかありません。
彼女は両親に手を取られて家を出ました(荷物はすでに馬車に積み込み済み)。

家の前から村中央の広場まで、村の人たちが列を作り、朝に摘んできた野花を投げて彼女を祝福しました。
男たちは大きな声で励まし、女たちは溢れる涙を隠そうともしません。
ただ、それと同時に、彼らがハンナの姿に衝撃を受けたのも事実でした。

黒に近い濃い紫の夜会服は、ハンナの白い肌を際立たせています。
しなやかな素肌の腕、胸の谷間まで見える大きな衿ぐり、腰の上あたりまで開いた背中。
そして白い喉元には、大粒の真珠のネックレスが、誇らしげな光沢を放っています。

控えめに白粉を塗り、紅を引いた唇。形のよい顎を上げ、まっすぐに前を見る彼女の姿は、どこかの貴婦人のようで、とても村娘には見えませんでした。
目の前を通り過ぎる時こそ、激励の声を上げていた村人も、彼女が通り過ぎるとその後ろ姿をいつまでも眺め、溜息をつくしかありませんでした。

広場での村長の贈る言葉が終わると、ハンナは盛大な拍手の中で優雅に礼をして、待っていた馬車に乗り込みました。
扉を開け、彼女の手を取ってそれを補助したハンメルは、彼女にだけ聞こえるように「ご立派です」とささやきました。
この時、ハンメルは彼女がいずれ国中に、その名を轟かすだろうと確信していました。

なお、アデリナたちがハンメルとハンナに、吸血鬼襲撃の可能性を教えていません。
知ったところで恐怖と緊張を与えるだけで、彼らには何もできないからです。
それに、行動が不自然になって、吸血鬼が気づいて警戒する恐れもあります。
何も知らない方が、幸せということもあるのです。

それから、自然発生的に整備されていく野営地の話が出てきますが、これはいいことばかりではありません。
当然ながら、野盗に狙われる危険があり、特に女性がいる場合は非常に危険です。
それにも関わらず、ハンメルが野営を選択したいうことは、彼はかなり腕に自信があったのだと推測されます。

さて、次回はまたもや吸血鬼戦です。これまでは屋内の戦いでしたが、今度は野外ですから、戦い方も変わってくるはず。
果たしてどうなるのか、次回をお楽しみに!

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