枯枝　葉

いつもの道、いつもの部屋、いつもの会話。その平凡な景色のなかで、想いが交差し、小さな奇跡が静かに生まれていきます。揺れる心、心の痛みと再生、記憶の奥に残る微かな光――五つの物語は…

少年時代に交わした「桜の下で一緒に写真を撮ろう」という約束。 蓮を失ってから、隼人は長い年月その桜を避けて生きてきた。 老いた春、ふたたび訪れた桜の樹の下で、彼は約束の続きを見つ…

戦後の焼け跡で見つかった一枚の便箋。そこに記された「ありがとう」は、AIが恋文を生成する時代、月面で桜を咲かせる時代を越えて、未来の地球へ受け継がれていく。 人の想いが、言葉とし…

九十五歳を迎えた女性は、触覚を通して生きてきた日々をたどる。庭の土のざらつき、卵の柔らかい殻、友と手をつないだ夏の汗、娘の小さな掌のぬくもり……それらは、愛そのものだった。だが老…

焼け跡の街で、食とともに人は生き延びた。焦げた芋の甘味、梅干しの酸味、チョコの甘さ――それらは単なる食事ではなく、誰かの愛や祈りの証だった。 有馬舞は、食の記憶を言葉に変える「愛…

写真家の息子として生まれた慶一は、亡き瑞希との記憶に囚われながらも、紗季と共に「不可視の光」展を企画する。白黒写真に触れた人々は、各々の記憶を呼び覚まし、見えないものこそ残ると確…

骨董市で古びたオルゴールを手にした出版社勤務の蔵田空良。旋律「白百合の祈り」を奏でるたび、彼は他人の記憶を追体験する。戦後の母子、病床の少女、結婚式の新婦――音色は人々の祈りを宿…

白百合の香る病院の庭で、蔵田悠翔は偶然、高村陽菜と出会う。互いにかつて愛した人を失った二人は、花の香りに導かれるように心の奥底の記憶と向き合う。散りゆく白百合の幻香は、過去の痛み…

会社・家庭・常識に押しつぶされる日々。悠は過呼吸で倒れ、人生の岐路に立つ。夜の駅で初めて自分のための選択をし、静かな自由と新たな一歩を掴む物語。

小学一年生のそうたは、じいじとたくさんの遊びを通して心を育んでいきます。ぱっちんや折り鶴、おはなしの時間……。けれどある日、じいじは「おほしさま」になってしまいます。残されたのは…

退職後、孤独を抱えるのの君の前に、仔猫の頃に助けた野良猫ツン君が現れる。共に過ごす日々を通じ、癒しと絆を取り戻し、季節は巡り、静かな春の余韻が二人を包む物語。

幼い日に交わした小さな「やくそく」。歳月を経て再会した二人の間に、かすかに残る記憶と想いが静かに息を吹き返す。亡き妻・志保が生前に密かに託した手紙が、閉ざされた心にそっと光を灯し…

1973年、高校三年の春。進と洋子は出会い、やがて遠ざかりながらも互いの存在を深く刻み込んだ。しかし時代と運命は無情に流れ、大学生活、就職、結婚、出産の夢は、砂時計の粒のように指…