「そういえば、この地には聖誕祭の風習はないんですね」
マリアが急に呟いた。自分に向けられたものだ、と気づくのが遅くなったシルクは彼女の横に並んだ。
聖誕祭。
かつて、アルシリア大陸に存在したという聖人の誕生日を祝うお祭り。もともとが隣国である皇国の風習だ。そのせいか、ヴェレリア王国ではあまり有名な行事とはいえなかったりする。
(そういえば中央は祝ってたけど、そこまで大きくは無かったな)
だから、思い出すのは子どもの頃の話だ。当時のアルビス公爵、つまりはシルクとマリアの父は異国の風習に熱心だった。
相手を知るには文化を知ること。シルクはそんな父の教えを、今も胸に刻んでいる。
「そういえば、僕ら宛に来たプレゼント。宛名が書いてなくて困った時があったな」
「ふふふ。そうでしたね」
シルクのしみじみとした言い方に、マリアは思わず笑ってしまった。
今でも鮮明に思い出せる。
公爵家に届けられたプレゼント。ご子息、ご令嬢とあれば誰宛か分かるのだが、ただお子様にと言われたものは対処に困る。
自分に当てたものではない贈り物を、贈り主に確かめもせずに開けてしまって自分のものじゃなかったら……。
そうならないために、ああではない、こうではないとマリアと議論したのを昨日のように覚えている。
「結局、二人宛でしたね。議論したかいもなく」
「そうだったね」
そこで、マリアの顔に寂しさの色が浮かんでいることにシルクは気づいた。
「今は、戦時だから難しいけど」
こちらを見たマリアに、シルクは微笑んだ。
「落ち着いたら、またお祝いしようか」
「……はいっ」
マリアの笑顔はまぶしかった。
本当にそんな日がくればいい。シルクは心から、そう思うのだった。
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