ケーキには夢がつまっている。
「確かに」
ポスターに書かれたコピーに、あたしは素直に頷いた。思い出すのは、小学生の頃だ。
エプロンをつけて、気分はパティシエ。
ボウルいっぱいに泡立てた生クリームをスポンジに塗りたくった。均等に、なんて考えもなくて、とにかくベタベタとやっていった結果、とても分厚い生クリームの層ができあがった。
今考えると不格好だけど、あたしは嬉しくてしかたのなかった。食べることしか知らなかったケーキが自分の目の前で形になっていくんだ。
湧き上がる万能感。まさしくそれが子どもにとっての「夢」なんだろうな、と思う。
そんなに楽しかったのに。
「なんで、あまり作ってないのかな?」
思い出せるのは、その一回だ。なんで、あたしはあれ以降作らなかったのか。
「うわっ」
一気に血の気が引いた。思い出したのは、お母さんの鬼の形相だ。
確か、あたしは自分の顔だけじゃ無く、キッチン中を生クリームだらけにしたのだ。そのあと、泣きながら掃除したことという余計な思い出まで蘇ってしまった。
「ははは」
苦笑い。
「でも、今年はまた挑戦してみるのもいいかな?」
わくわくしてきた。今と昔では夢も違うけど。
今のあたしの夢をつめこんだケーキをつくるのも、悪くないんじゃないかな?
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