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ランキング巡回ログ #29 ~止まっていた“おじさん”が、異世界で少しずつ動き出す~

最強のダークエルフの肉体を持ちながら、それでもこの“おじさん”は自信がない。
その姿に、「止まっていた人間が少しずつ動き出す物語だ」という言葉が重なった。
その変化の行方が気になって、この作品を読み始めた。


今日はランキング掲載作品ではなく、トップページの注目作品に掲載されていた作品を覗いてみる。
今回開いた作品はこちら。

『私の心はおじさんである』
https://kakuyomu.jp/works/16816927859486361460

初回公開は2022年1月。すでに1,600話以上が連載されている長編作品だ。

この分量の時点で、通常なら読むのを躊躇する。
しかしおすすめレビューには、「最強系だが俺TUEEEではない」「主人公も仲間も成長していく」といった言葉が並んでいた。

私好みの言葉に惹かれて、読み始めた。


普通のサラリーマンであった山岸遥は、ある日目を覚ますと森の中にいた。

体は若く美しい女性のダークエルフ。
しかし中身は、おじさんのままだった。

最強クラスの魔法と肉体を持ちながらも、主人公はどこか自信がなく、年下の仲間たちに支えられながら世界に馴染んでいく。

これは、“最強の力を持ったおじさん”が異世界で生き直す物語である。


ジャンルは異世界ファンタジーであり、絶世の美女になったTS作品でもある。

ただし本作の本質は、単なる性別変化ではない。
中心にあるのは、「最強のダークエルフ」と「疲れ切ったおじさん」というズレそのものだ。

外見が変わっても、人格や行動原理はすぐには変わらない。
この作品はそこを丁寧に描いている。


通常の最強系主人公であれば、力によって問題を解決していく。
しかし本作の主人公はそうならない。

力はあるが、それを使う自信がない。
むしろ戦いを避け、衝突を回避しようとする。

それでも異世界は優しくない。
避けられない現実が、選択を迫ってくる。

そのたびに、小さな変化が積み重なっていく。


ここで、この“自信のなさ”の理由が、回想として差し込まれる。

山岸遥は子供の頃、本が好きな子供だった。
物語のヒーローに憧れ、「正しさは人を救う」と信じていた。

だが現実は違った。
正しいことを言っても誰かを傷つけてしまうことがある。
むしろ、自分の言葉が他人を壊してしまうことすらあった。

その経験から遥は次第に感情を抑え込むようになる。
怒ることも、泣くこともやめていった。

“正しさを信じた子供”が、“何も言えない大人”になった瞬間だった。

この経験が、そのまま異世界での「自信のなさ」につながっている。


個人的に、この作品の良さはここにある。

主人公は甘い。
だがその甘さを自覚している。

そして世界は、その甘さをそのまま許してはくれない。
これは単なる“優しい主人公の物語”ではない。
むしろ、
「優しさが現実と衝突したとき、人はどう変わるのか」
を描いている。

巡回ログ #7で触れたような、“優しさがそのまま成立する世界”ではない。
本作では優しさは厳しい異世界と衝突する。

その衝突の中でしか成立しない関係があり、
その中で主人公は少しずつ成長していく。


TS作品として見ても、この作品はやや異質だ。

いわゆる「美少女になった俺すごい」ではない。
むしろ中心にあるのは、

美少女として扱われることへの違和感
最強の肉体との自己認識の不一致
中年男性としての価値観の残存

このズレが常に物語の中心にある。

そして重要なのは、このズレが固定されたものではないという点だ。

前世の主人公は、長い時間の中で感情を抑え込むことを覚えた人物だった。
その結果として、自分の意見や感情を外に出せない状態になっている。

しかしTS転生し、異世界で仲間と出会うことで、
その“止まっていた部分”が少しずつ動き始める。

以前なら避けていた言葉を、少しずつ口にするようになる。
選べなかった選択を、少しずつ選べるようになる。

その変化は劇的なものではないが、確かに積み重なっている。

つまり本作は、TSによって人格が変わる物語ではない。
かといって、変わらないまま耐える物語でもない。

むしろその中間にある、
「変われなかった人間が、ようやく変わり始める物語」
として読む方がしっくりくる。

この“遅れて始まる成長”こそが、本作の面白さだと感じた。


まだ序盤しか読んでいないが、すでに作品に引き込まれている。
現時点での評価は☆3だ。
最強系やTS作品にありがちな即時的なカタルシスではなく、
内面のズレと成長が軸になっている点が大きい。

おすすめレビューは、もう少し読み進めてから書きたい。


(追記)―――
おすすめレビューを書きました。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859486361460/reviews/2912051599753153776
―――


今のところ大きな違和感はない。
世界観や魔法体系も丁寧で、キャラクターも過度にテンプレ化していない。

強いて言えば、1,600話という分量は読者を選ぶ要素だろう。


世界観の整合性や内面描写を重視する読者、
そして“最強なのに葛藤する主人公”を好む読者には強く刺さる作品だと思う。
主人公の成長を静かに追っていきたくなる作品だ。

さて、次はどんな作品に出会えるだろうか。
今日もまた、ランキング巡回の続きだ。

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