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【虹(二次)のお部屋】 その1 『……見えないのですか?』




※こちらは二次創作です。
※元作品:kou様『アンドロイドは下ネタの夢を見るか?』
https://kakuyomu.jp/works/16818792439688648232



【虹(二次)のお部屋】 その1
 『……見えないのですか?』


ナナさんがこの家にやって来てからというもの、健司さんは朝起きるのが楽しみになった。
毎朝、栄養バランスのいい食事をナナさんが用意してくれるからだ。

特に健司さんのお気に入りは、味噌汁だった。

「……ふぅ。今朝の味噌汁、美味しいよ」

「お褒めいただき嬉しいです、マスター。
マスターは昨夜、残業でお帰りが遅かったため、疲労値が通常より29%増加していました。
疲労時は体内の水分・ミネラルバランスが乱れやすいため、今朝のお味噌汁は、マスターの体が“最も心地よく感じる濃度”に調整しております。
その結果、昨日より0.17%濃いめになりましたが、塩分濃度は今のマスターに最適値です」
とナナさんは言い、くすっとすこしだけ笑った。

「…ん? 何がおかしいの?」
健司さんが不思議そうに聞くと、ナナさんは微笑みながら言った。

「昨日も、一昨日も、その前も。まったく同じ“間合い”で、同じ言葉をおっしゃったので。
……愛らしいな、と」

「愛ら……。……いや、さすがに同じ間合いってことはないだろう」

「では、ご希望でしたら、“指向性超音波スピーカー”にて過去三日分の音声を重ね、
“完全に同じである証拠”をお届けできますが。
再生しますか?」

健司さんは、ナナさんの“常時録音能力”の存在を忘れていた。

(あれか……何もない空間から音が飛んでくるあの装置か……
三日分の自分の声が重なるなんて、絶対に嫌だ……!)

「い、いや、ナナ。それはいい。
 ……えっと、そういえば今朝、ネットかどこかのエッセイで読んだんだよ」

健司さんは、慌てて話題を変えた。

「味噌とか醤油には、“アスペルギルス・オリゼ”っていう
 日本固有の麹菌がいるんだって。
 ……あ、いや、“もやしもん”でも読んでたんだけど…」

ナナさんは瞬きを二度、そして首をかしげた。

「……いるんだって、ですか?
 ええ、知っています。……ですが、マスター。
 なぜ“そんな当たり前のこと”を今おっしゃるのですか?」

「いや……ナナは何でも知ってるんだね……」

「いいえ。知識ではありません」

ナナさんは、姿勢をぴんと正し、淡々と告げた。

「見えておりますから」

「……みえてる? えっと……何が?」

「何が、とは……?」
ナナさんは、なぜそんなことを? という顔で小首を傾げた。

「“アスペルギルス・オリゼ”が、です」

「…………え??!!」
「君、オリゼ菌が“見える”の??!」

「え??!!」
ナナさんも負けじと目を大きくする。

「マスターには……見えないのですか?」

ぱちぱち、と二人のまばたきが重なった。
沈黙。

「…………見えないよ……?」

「…………不便ですね……?」

「不便って言うな!!」

ナナさんは淡々と続ける。

「現在は“通常モード”のため、視界情報の処理領域を68%に抑えておりますが、
 “高性能カメラモード”へ切り替えれば、
 ――そうですね……。
 マスターのお顔に存在する常在菌の“正確な数”もカウントできます。
切り替えますか?」

「やめてくれ!!
 朝ごはん中に、自分の顔に何の菌がいるかなんて知りたくないよ!!」

慌てる健司さん。
そんな健司さんを見て、再びくすっと笑うナナさん。

そんなふたりの朝は、今日も平和に過ぎていく。
小さなアスペルギルス・オリゼたちがふんわりと漂う湯気は、ふたりの食卓をやさしく包んでいた。

(終わり)





⚫︎ あとがき

はじめての二次創作に挑戦してみました。
世界観を大切にしつつ、そっと遊ばせていただきました。
“見える”設定をお借りしたのは勢いで……勝手に設定してすみません(>人<*)


2件のコメント

  •  二次創作にして遊んで頂き、ありがとうございます。
     本編では、一話はゴミ屋敷だった家が片付き、健司も会社に復帰した日常ですが、現在はまだ、ナナにご飯すら作ってもらえていない状態。
     こうした日常シーンに到れるようにしてあげたいのですが、なんやかんやと夫婦漫才が繰り広げられる。
     ナナが、◯%と具体的な数値で発言するのが、アンドロドらしいです。
     25話における、指向性超音波スピーカーによる録音再生もネタにして頂き、恐縮です。
     こういう設定は、最初から決めていた訳ではなく、その時になって思いつきで設定しています(^^ゞ ナナは高性能ですので。
     金時さんによるナナの目は、顕微鏡並の超精密カメラ。
     菌が見える、見えないの押し問答。
     確か漫画『もやしもん』では、人間の顔には膨大な数の細菌が生息していて、一列にすると地球を何周かしてしまうという話しがありましたが、ナナには、それが見えると……。
     まあ、見えるのは仕方ないとしても、朝ごはんの最中には聞きたくないですよね。
     ほんの少し前まで、話し相手もいなくて、食事は空腹を満たすだけの作業でしかなかった。
     けれど、今はこんなにも充実した会話をしながら食事をしている。
     健司は、ナナの奇行に振り回されながらも、楽しい毎日を過ごしているのが伝わります。
     二人を、こんなにも愛してくださり、作者として感謝しています。
     ありがとうございます。
  • kou様

    はじめての二次創作だったので、実は投稿するとき少しどきどきしておりました。
    世界観を壊してしまったらどうしよう、と不安もあったのですが、
    こうして読んでいただけて、温かいコメントまで頂戴し、ほっと胸を撫でおろしています。
    本当にありがとうございます。

    ちょうど今朝、“アスペルギルス・オリゼ”についてのエッセイを仕上げていたので、
    その流れで「ナナさんなら、きっと“見える”だろうな」と思い立ったのが今回の発想でした。
    ナナさんの高性能ぶりは本編でも驚きの連続で、つい想像がふくらんでしまいました。

    健司さんとナナさんの時間を、できるだけ大切にしながら、
    そっと遊ばせていただいたつもりです。
    呼び捨てにすることがどうしてもできず、少しぎこちなくなってしまった点はご容赦ください。

    もし、二次創作に抵抗がおありでしたり、
    世界観はそっと守っておきたい、というお気持ちがございましたら、
    遠慮なくお申し付けくださいませ。
    わたしとしては、ただふたりの日常を描けたことが幸せだっただけで、
    作者様のお気持ちを最優先にしたいと思っております。

    楽しい時間をありがとうございました。
    これからも引き続き、本編を心から楽しみにしています。


    追伸

    最新・第26話、読ませていただきました。
    わたしは健司さん側の性別ではないため、とても新鮮で、
    それでいて不思議と“ノスタルジー”のようなものを感じていました。

    過ぎ去った時間のあたたかさと、ほんの少しの寂しさが
    柔らかな影のように差していて、胸がじんわりしました。

    だからこそ、
    ナナさんの手の中で変化していく“天国”の描写は、
    いつものかわいらしさとは打って変わり、
    “何物をも寄せ付けない圧倒的な存在”に見えて、
    思わず背筋がぞくっと……笑

    心の中でそっと、
    「健司さん……これ、もしかして“掃討作戦”の開始では……?」
    とつぶやいてしまいました🤭

    金時まめ
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