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【感想のお部屋】 『GW怪奇譚 腐れ縁の絆』  〜 持っている力が違うから、並んだときに強くなる 〜


※※ はじめに ※※

この小部屋を見つけてくださって、ありがとうございます。
こちらは、わたしがkou様の作品を読ませていただいたときの、感想などを綴っているお部屋です。
今回はこちらの作品です。

『GW怪奇譚 腐れ縁の絆』 kou 様

https://kakuyomu.jp/works/16818622174543295568

※※ 以下、ネタバレを含みます ※※









⚫︎ 退屈な連休に入る、最初の亀裂

ゴールデンウィーク。
陽射しは暖かく、空は晴れ渡って世間は行楽ムード。
そんな誰もが楽しげに過ごしている中、主人公の清武蓮くんの気分は、そんな明るい空気とは対照的です。
特に予定もなく、友人たちの楽しげなSNSを横目に、自転車で当てもなく彷徨っている。
この、なんとも言えない“連休なのに予定のない自分は置いていかれている感じ”が
まずとてもリアルだと感じました。
(行く予定もないのに「図書館へ行く」などと、見栄を張って言っちゃうところも含めて)

でも蓮くんのだるさは、ただの退屈や怠けではないのですよね。

   大勢の人間が集まる場所に行くと、まるで無数の声や感情がノイズの洪水となって脳内に流れ込んでくるような感覚に襲われ、ぐったりと疲弊してしまう。
   視界の端には、時折、黒いインクのシミのようなものがチラチラと蠢く。
   (第1話より)

気のせいにしたいけれど、気のせいでは済まされない違和感ですよね、それは。
だから、お話が進むとわかってくる蓮くんの「視える」力は
最初から格好いい特殊能力として描かれていません。
むしろ、身体を削る負荷として描かれています。

視えることは、便利な力ではなく。
まずは、しんどい。
望んでいないのに流れ込んでくるもの。
遮断したいのに遮断できないもの。
気づきたくないのに、視界の端からこちらを侵食してくるもの。

第1話のタイトル「連休の亀裂」は、まさに、楽しいはずのゴールデンウィークの表面に
小さなひびが入っていくような始まりでした。



⚫︎ お小言の形をした「ほっとけない」  

そんな蓮くんの前に現れるのが、幼馴染の姫宮灯里さんです。
白いブラウスに紺色のプリーツスカート。

    華奢な体つきだが、その立ち姿には一本芯の通ったような揺るぎなさが感じられ、それは彼女が神社の娘として、幼い頃から特別な環境で育ってきたことの証左なのかもしれない。

   (第1話より)


背筋の伸びた、凛とした少女。
なんというのか、音で表したら…。
シャキン…いや違うなぁ。キリッ…。ピリッ…。うーーん…と考えて。
“すっく”が一番似合うでしょうか。

   
 蓮にとっては、この完璧すぎる優等生然とした佇まいこそが、昔からどうにも苦手で、そして同時に、どこか目を離せない存在だった。
   (第1話より)
   
この距離感が、もう、とても「腐れ縁」ですよね。

会えば口喧嘩になる。
言わなくていい一言を言う。
言い返さなくていい一言を返す。
けれど、完全に無関心ではない。
むしろ、関わりすぎるほど関わっている。

第2話「不穏な予兆」で、具合の悪そうな蓮くんを見つけた灯里さんが言うこの言葉。

   「ほっとけるわけないでしょう」
   (第2話より)

この一言が、とても印象に残りました。

灯里さんの言葉は、やさしく甘いものではありません。
むしろ、キツいです。お小言です。
蓮くんからすれば、うるさいし、癪に障ります。

でも、そのお小言の奥には、蓮くんをちゃんと
「見ている」
「気づいている」
「放っておけない」
という感情があるように感じました。

お小言は、灯里さんが蓮くんを責めるための言葉ではなく。
そばにいるための声だったのだと思いました。

   「お前には関係ない」
   「関係なくはないわ!」
   (第2話より)

この「関係なくはない」という言葉が
この作品全体の大切な芯のひとつのように感じました。

   灯里も言い返そうとしたが、途中で言葉を切った。
   何かを言いかけて、飲み込んだような表情。
   二人の間に、気まずく、そして不穏な沈黙が流れる。いつもの口喧嘩とは違う、     
   もっと根源的な部分での断絶と、無視できない繋がりが、そこにはあった。
   (第2話より)

ただ仲が悪い幼馴染というだけではなくて、「断絶」がある。
でも、「無視できない繋がり」もある。
この二つが同時にあるから、「腐れ縁」なんだと思いました。



⚫︎ モノクロ写真が開く、過去への扉

第1話「連休の亀裂」で、蓮くんは物置整理のお手伝い中に、祖父の遺品の中から一枚の古びたモノクロ写真を見つけます。

若い頃の祖父と一緒に、灯里さんに生き写しのような袴姿の少女が写っています。
写真の中のその少女に指先で触れた瞬間、
蓮くんの中へ、黒い影と、思考のノイズと、悪寒が一気に流れ込んでくる。

   「うわっ!?」
    思わず写真を落とす。
    心臓が大きく跳ね、背筋を氷水で撫でられたような悪寒が走った。
    そして、脳裏に叩きつけられるイメージの奔流!
    黒、黒、黒――蠢く影、粘つくような闇、無数の細い腕、あるいは嗤うような口のようなもの――これまで視界の端に見えていた「黒いシミ」が、より鮮明に、より禍々しく、暴力的なまでのリアリティを持って迫ってくる。
    同時に、まるで壊れたラジオのように、雑多な思考や感情が頭の中に流れ込んできた。
   (第1話より)

つ、つらい。これは想像しただけで苦しいです。
このモノクロ写真は、ただの古い写真ではなかったんですね。
写真は動かず、静かなものなのに、そこに触れた瞬間、物語が一気に動き出す。
静と動の対比がすごい。

眠っていたもの。
知らなかったもの。
気づかないようにしていたもの。
それらが、蓮くんの指先の動きひとつで、現実の中へ入り込んでくる。

この「写真に触れる」という行為は
過去が現在へ触れてくる扉であり
封じられていたものが、こちら側へ流れ込んでくる入り口だったのでしょうか。
蓮くん自身も知らなかった、清武家と姫宮家の縁を呼び起こす装置のように感じました。



⚫︎ 姫宮と清武――視える者と、祓う者

第3話「姫宮と清武」では灯里さんが、蓮くんが見ていた黒い影が、《歪》(ひずみ)と呼ばれる存在だということを伝えてくれます。
そして“腐れ縁”の真実も。

・姫宮家は、代々その《歪》を祓い、封じることを使命としてきた一族。
 けれど、姫宮家には《歪》の姿がはっきり視えない。
・一方、清武家には《歪》を視る力がある。
ここ、とてもおもしろい設定だと思いました。🤩

姫宮は祓える。でも、視えない。

清武は視える。でも、祓えない。

どちらか一方が完璧なのではない。
持っている力の種類が違う。
だからこそ、並ぶ必要がある。
「一人では完結しない」そんなふたり。

この構図がとても好きです。

蓮くんと灯里さんは、性格的には噛み合っていません。
会話をすればすぐに口喧嘩になるし
灯里さんは上から目線だし、蓮くんはすぐ反発する。

でも、力のあり方としては、これ以上ないほど『噛み合っている』
すごい!おもしろい!!


視える者と、祓う者。

持っている力が違うから、そばにいる意味がある。
ひとりでは届かないところへ、ふたりで届くことができる。

“腐れ縁”という言葉は、少し照れ隠しのようで、少し乱暴で、少し面倒くさい響きを持って、このふたりにとてもぴったりに感じました。
その腐れ縁こそが
《歪》に立ち向かうための大切な力になっていくのですね。



⚫︎ 《歪》が喰らうもの

《歪》は、ただの怪物ではありません。
人の生気や縁を喰らう存在。
この「縁を喰らう」という設定が、
『腐れ縁の絆』というタイトルと、とても強く響き合っているように感じました。

  縁を喰らう《歪》。
  それに立ち向かう、腐れ縁のふたり。

“縁”を守るために“縁”の力が必要なのかもしれない。そんなふうに感じました。



⚫︎ 視えるだけだった力が、言葉になる瞬間

第4話「《歪》との戦い」での戦闘は、文字なのに映像として場面がぱっと浮かんできました。

それも《歪》が現れたのは、知らない場所ではなく
蓮くんと灯里さんが、子どもの頃に遊んだ公園、というのもとてもいいです!
つまり、ふたりの過去が染み込んだ場所ですよね。
その場所が黒い泥のような《歪》に侵されている。
それは、街を守る戦いであると同時に
ふたりの昔からの縁が染み込んだ場所を守る戦いでもあったように感じました。

   灯里は持参した包を振り払った。
   薙刀が姿を表す。
   代々姫宮家に伝わる祓魔の薙刀だ。 
   (第4話より)

おお!!薙刀!
灯里さんの武器は薙刀ですか✨ かっこいい!

戦いはじめ、ふたりの連携はうまくいきません。
灯里さんは戦えるけれど、視えない。
蓮くんは視えるけれど、うまく伝えられない。

   「もっとハッキリ視なさい!」

     (中略)

   「俺のせいかよ!」
   (第4話より)

こんな緊迫した場面なのに、いつもの口喧嘩が始まってしまう…。

でも、その直後に《歪》の攻撃から、蓮くんが灯里さんを庇う場面。
蓮くんにとって灯里さんは、忌々しい幼馴染。
口うるさくて、すぐに偉そうなことを言う相手。
でも、危険が迫った時に、かばわずにはいられない相手なんですよね。

そして。
ただ視えているだけでは足りない。

灯里さんが、視えないまま動けるように、具体的な言葉にして伝えるようになっていく。

この場面がとても好きです。

蓮くんの「視える」は、これまで頭痛やノイズを伴うしんどい力でした。
戦いの中でも、それは続いています。

    脳裏には、またしてもどうでもいい他人の思考や感情がノイズのように流れ込み、集中力を削いでいく。
   (第4話より)

けれどここで、その力は、灯里さんを助けるための言葉になります。
視えるだけだった力が、誰かへ届く言葉になる。
そして灯里さんは、視えないものを蓮くんの言葉を信じて斬る場面。

   「……本当にそこでしょうね?」
    灯里は一瞬だけ、蓮の方を振り返った。
    その瞳には、まだわずかな疑念と、藁にもすがるような期待の色が浮かんでいた。
   「間違いない! 俺が視えてる!」
    蓮は叫び返した。その声には、自分でも驚くほどの力がこもっていた。
    灯里は、ふっと息を吐いた。迷いを振り切るように。
   「……信じるわよ。もし外したら、あんたのせいだから!」
    憎まれ口は忘れない。
    だが、その声には覚悟が決まっていた。

   (第4話より)

完全に素直な信頼ではない。綺麗な感動のセリフでもない。

 ――でも、信じている。

この、口喧嘩混じりの信頼が
蓮くんと灯里さんらしい共闘なのだと思いました。



⚫︎ 口喧嘩のまま成立する絆

《歪》を倒したあと、ふたりは感動的に握手するわけではありません。

   「……まあ、最後の指示だけは、少しは役に立ったんじゃない?」

   「減らず口を言いやがって。俺のお陰で勝てたんだろ」

   「そういうあんたは、男のクセに女の私の後ろに隠れてばっかり。よくそれで偉そうな口利けるわよね」

   「何言ってやがる。大将ってのは、後ろでデンと構えて指示をだすものだろうが」
   (第5話より)

……もう、あなたたちったら笑
命懸けの戦いの直後なのに、やっぱり口喧嘩なのね。

でも、この場面の空気は、最初の口喧嘩とは違います。

    だが、その言葉の棘には、もう先程までの本気の苛立ちは含まれていない。
   むしろ、互いの存在を確かめ合うような、そんな奇妙な安堵感すら漂っている。
   (第5話より)

ふたりは急に仲良しになるわけではない。
素直に「ありがとう」と言えるわけでもない。
でも、言葉の温度が変わっている。

最初は、反発のための口喧嘩。
戦いの後は、生きて戻ったことを確かめ合うための口喧嘩。

美しく整った絆ではなく
文句も、反発も、照れ隠しも含んだまま、いざという時に噛み合う絆。
これこそが、この作品の「腐れ縁の絆」なのだと思いました。




⚫︎ まだ終わらないゴールデンウィーク

ひとつ《歪》を倒して、これで終わり。平和な日常に戻りました。
ちゃんちゃん♪
……では、ないのですね笑

灯里さんは、さっそく次の出番へ蓮くんを引っ張っていく。
…蓮くんの平和なゴールデンウィークは、完全に終わりました。
でも、退屈だったはずのゴールデンウィークは、きっともう退屈ではない。

黒い影も、ドロドロの《歪》も
口うるさい幼馴染の説教も待っている。
でもそこには、蓮くんを必要とする灯里さんがいて
灯里さんを支える蓮くんの視る力がある。

 ――この戦いはまだ始まったばかり。
そんな余韻を残す終わり方が、とても好きでした。

蓮くんと灯里さんのこの先の《歪》との戦いも
口喧嘩をしながら少しずつ噛み合っていくふたりの関係も
いつかまた読めたら嬉しいな、と思いました。



⚫︎ おわりに

この物語は、ただの怪異退治ではなく
人と人のつながりを守る物語だったのだと感じました。

「腐れ縁」のふたりは、顔を合わせればすぐに口喧嘩が始まる。
でも、いざという時に
「関係なくはない」と言えること。
「ほっとけない」と言えること。
見えないものを信じて踏み込めること。
それはもう、立派な絆なのだと思いました。

そして何より。
kouさん、ありがとうございます!
“幼馴染の口喧嘩”。

わたくし、大好物でございます(*´∇`*)

引用してたら、全部引用になっちゃいそうで
でも、あ。この会話も載せたい。こっちも。と
引用したい箇所を探す手が止められませんでした。



『その「ん」は、終わりじゃなく始まりの言葉』 の時も感じましたが
kouさんの描く、“幼馴染のわちゃわちゃ口喧嘩”が本当に絶妙で🤭


ゴールデンウィークの最終日に、素敵なお話を読むことができて幸せです。
ありがとうございました。




では、また『感想のお部屋』でお会いいたしましょう👋
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。








kou様へ

わたしがkouさんの作品を初めて読ませていただいたのが
この次の作品である
『優太と見えない守り手〜お母さんの手のひら〜』からでした。

ですので、この『GW怪奇譚 腐れ縁の絆』は
投稿時のリアルタイムでは、読んでいない作品でした。

こちらの作品をkouさんが昨年のGWに投稿されていたので
わたしもGWに読もうと思いました。

今日読んでみたら、とってもおもしろくて。

一年前の公開時には出会えていなかった作品ですが
一年後の同じ日に読めたのも、それはそれで楽しかったなぁと思ったり。


ゴールデンウィークという「ハレ」の時間に、《歪》という非日常が染み出してくる構造。
視えるけれど祓えない蓮くん。祓えるけれど視えない灯里さん。

この、持っている力の違うふたりが、口喧嘩をしながらも少しずつ噛み合っていくところ。
戦闘シーンは手に汗握る緊迫感があるのに、相変わらず口喧嘩は続いていて🤭
でも、特に、《歪》の核を蓮くんが視て、その位置や高さや大きさを言葉にして灯里さんへ伝え、灯里さんが視えないまま、その言葉を信じて踏み込む場面。
あの場面が、とても好きです。

そして、戦いの後の口喧嘩も良かったです。かわいすぎます、このふたり。

素直に感謝し合うわけではないのに、もう最初の頃とは言葉の温度が違う。
ふたりなりの安堵や信頼が、あの憎まれ口の中にちゃんと滲んでいて
そこがとても「腐れ縁の絆」だなぁと思いました。

蓮くんの平和なGWは終わってしまいましたが笑
このふたりの騒がしい共闘は、まだ始まったばかりなのですね。



蓮くんの「視界の端には、時折、黒いインクのシミのようなものがチラチラと蠢く。」のところ、とてもリアルに感じました。

というのも、これって『片頭痛の閃輝暗点』という症状にとても似ているなぁと、読みながら感じたんです。
その症状は、黒いインクのシミではなくて、ギザギザのキラキラしたものなのですが。
以前片頭痛に悩まされていたことがあるので、とても人ごとと思えなかったです。

そして。

   「……分かった、分かったから! 要するに! まとめろ! 三行で!」
   (第3話より)


おお(*´艸`*)

懐かしの古の呪文「今北産業」――つまり「ここまでの流れを三行で!」を彷彿とさせてくれました。



腐れ縁を“面倒な関係”として始めながら
視えるけれど祓えない蓮くんと
視えないけれど祓える灯里さんが
互いの持っている力を持ち寄ることで、《歪》に立ち向かう。

投稿から一年後のゴールデンウィークに、この作品を読めてよかったです。
ご返信などは、どうぞご無理なさらず。
(献血先輩もお疲れ様でした)
作品を読ませていただけて、とても楽しいゴールデンウィークの締めくくりになりました。

とても素敵なお話でした。ありがとうございました。

コメント

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