高校生の頃、友人とお出かけした帰りに、ちょっと素敵な喫茶店の横を通りました。
大きな森に囲まれた公園の傍に建つその洋館は、ファストフードに行き慣れている女子高校生たちにとっては、少し背伸びしないと入れない雰囲気でした。
店内の中にある、外からもチラと見えるショーケースの中のケーキがあまりにおいしそうで、ふたりで顔を見合わせて、勢いでドアを開けその喫茶店へ入りました。
けれど、席についてメニューを開いた瞬間に、わたしたちは少し焦りました。
高校生のおこづかいでは、ケーキを頼むだけで精一杯なお値段設定。
とてもとても飲み物までは手が届かない、私たちのお財布の事情……。
ケーキを食べたくて入ったのだから、飲み物だけという選択肢はなく、
結局“ケーキのみを1ピースずつ”頼むことにしました。
案内され座った席から見る景色は、
置かれている調度品や、お店の雰囲気、裏の窓から差し込む夕方に近づく陽の光がとても美しかったのを覚えています。
ケーキの登場を静かに待っていると、
しばらくしてお店の方がケーキを運んできてくださいました。
ケーキが乗った素敵なお皿と共に、
ケーキのお皿と同じデザインのティーポットと、
カップとソーサーのセットを二つ。
つまり“注文していない”ティーセットがそっとテーブルに置かれたのです。
戸惑っている10代の女の子ふたりへお店の方は、
「おいしいケーキには、やっぱりおいしい紅茶がいちばん。
どうぞ、お店からのサービスです。」
と。
その一言に、一瞬いたたまれないような恥ずかしさとともに、
胸の奥がふわっと温かく、その温かさに心を揺さぶられました。
わたしたち恐縮しながらも丁寧にお礼を言い、そのご好意の紅茶をありがたく頂戴しました。
紅茶は、たぶんダージリンだったと思います。
紅茶本来の味を楽しめるように、ストレートでいただきました。
ケーキの甘さをやさしく包み込むような香りがして、
一口飲むたびに、心までほどけていきました。
…もしくは、お砂糖やミルクを入れて、これ以上子どもに見られたくなくての
ストレートという選択だったのかもしれません。
お店の方からの、まだ若い高校生へのやさしい眼差しは、
ケーキだけを頼める所持金しか持っていないのに、素敵なお店に飛び込んでしまった無防備さや、
それでも少し背伸びをしたかった、10代の女の子たちの気持ちをすべてわかった上での、
「おいしいケーキには、おいしい紅茶」
とのやさしい言葉だったのだと思います。
ご自身のお店のケーキを、おいしく食べてほしいとの願いも含んでいたのかもしれません。
感動したわたしは、その後は両親を何度も誘って、そのお店へ通いました。
あれ以来、ダージリンの香りに包まれると、
あのときの店員さんの笑顔と声と、
10代だったわたしにとって、身も知らない一瞬の出会いの“大人”のやさしさが、じんわりと今でも胸に広がります。
誰かのさりげないやさしさが、あの“揺さぶり”が、時間を超えて何度も何度も心を温めてくれる。
だんだん冬へ近づく寒くなった日。
そんな“ティーポットの魔法”を、
今日はもう一度思い出したくなりました。
いつもは珈琲派のわたしですが、
今日は紅茶にしてあの温かさを思い出してみようと思います。