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【感想のお部屋】 『アンドロイドは下ネタの夢を見るか?』 その8 〜 30.3℃では測れない温度 〜


※※ はじめに ※※ (定期)

この小部屋を見つけてくださって、ありがとうございます。
こちらは、わたしがkou様の作品を読ませていただいたときの、感想などを綴っているお部屋です。
今回はこちらの作品です。

『アンドロイドは下ネタの夢を見るか?』 kou 様
https://kakuyomu.jp/works/16818792439688648232

※※ 以下、ネタバレを含みます ※※

(この感想を書いている時点の最新話は
 『第42話 お味は、いかがですか?』です)







⚫︎ あら。カクヨムさんたら。 誤爆?

8月26日。
『第42話 お味は、いかがですか?』の更新通知を見つけました。
最初、わたしは一瞬、誤爆、もしくは再投稿かと思ってしまったんです。
だって、前話のタイトルが、『第41話 美味しいですか?』

   「美味しいですか?」
   「お味は、いかがですか?」

……似てる。
「あれ? 第41話がもう一度……?」と。でも、よく見ると、

「第42話……。42話じゃなーい ⤴︎🙌✨」でした。
あら。嬉しい勘違い🤭



⚫︎ 味見から、とうとう「いただきます」へ

第38話から数話をかけて、健司さんの味見ミッションが繰り返されていたので、
わたしの中では、もうすっかり健司さんはお食事を始めている感覚になっていました。
そして第42話。料理がすべて食卓へ並べられて、

   「さあ、マスター。温かい内に、お召し上がり下さい」

と促され、

   「いただきます」

と手を合わせる。

ああ。
ここから、ようやく「お食事開始」なんですね。
最後に調味料を鍋肌から回し入れる場面では、音と一緒に焦がし醤油の香ばしい匂いまでこちらへ漂ってくるようでした。

   仕上げに振られた塩こしょうの粒が、照明を反射してキラキラと降り注いだ。
   (第42話より)

kouさんの手にかかれば、塩こしょうまで、こんなにも美しく見えるのですね。
そして、わたしがとても好きだったのが、

   レトルトのご飯を電子レンジに入れ、完璧なタイミングで温めを完了させた。
   (第42話より)

ここ。
これこれ!  ここ、とても好きです!
ナナさんとしては、自分で工夫して作ったお料理を喜んでもらいたい、という気持ちもあるのでしょうけれど。
白米を・いちばん美味しく食べられるタイミングで・温め終える。
そこまで健司さんへ心を配る。
こういう、一見するととても小さな「手間」に、わたしはものすごく惹かれます。
さすがナナさんです。



⚫︎ 第1話の朝へ向かう、最初の一歩

食卓へ並んだ料理を見て、健司さんは呆然とします。

   温かいご飯の湯気、味噌汁から立ち上るだしの香り、そしてメインディッシュである『豚バラ豆腐炒め』が放つ、甘辛い醤油の暴力的なまでの芳香。
   18年間、この家の食卓は、ビニールとプラスチックの匂いしかしない場所だった。それが今、信じられないほどの生活の匂いで満たされている。
   (第42話より)

この場面を読んでいて、第1話の冒頭を思い出しました。
ナナさんが家へやってきて、一ヶ月ほど経った頃。
まだ微睡んでいる健司さんの鼻へ、お味噌汁の香りが届く。
階下へ行くと、朝ごはんが整えられている。
あの、朝の太陽の光を感じるような食事の風景。
わたしたち読者は最初から、そこへ辿り着いた二人の姿を見せてもらっていました。
でも。
あの朝へ向かう最初の一歩は、まさに“今、ここ”なのですね。
そう思ったら、じーんと胸が熱くなりました。



⚫︎ 細胞まで届いた

そして、ついに。

   うまい

   いや、うまい、なんてものではない。
   細胞の一つ一つが、歓喜の声を上げているのが分かる。
   (第42話より)

。・゜・(ノД`)・゜・。
本当に良かった。
健司さんが「美味しいものを食べられて良かった」だけじゃないんです。

   一口食べるごとに、血となり肉となり、身体が内側から修復されていくのが分かる。
   空っぽだった胃袋だけじゃない。
   長年の不摂生と孤独で、空っぽになっていた健司の心そのものが、この温かい食事によって、じんわりと満たされていく。
   (第42話より)

ここで、第3話の文彦さんの言葉を思い出しました。

   「お前は何のために働いている。何のために生きているんだ?」

と聞かれた健司さんは、

   「……会社の為。社会の為」

と答えていました。
健司さんはずっと、自分自身よりも「役割」を優先してきた人なのですよね。
それはもちろん、立派なことなのだけれど。
でも、その結果として、自分の身体も、自分の心も、ずっと後回しになっていた。
そんな健司さんが今、

「細胞が喜んでいる」

と感じるようなお食事をしている。
身体だけではなく、心まで「お食事」をしている。
それがもう、わたしには嬉しくて。
まずはここで、大泣きです。ハンカチが手放せません。



⚫︎ 「訂正します、マスター」

そんな健司さんが感じた「温かさ」を、ナナさんはA.I.C.S.らしく科学的に分析します。
過去の夕食の平均摂取温度は38.2℃。本日の食事は68.5℃。その差、30.3℃。
たしかに、30.3℃も違えば、そりゃあ「温かい」と感じますよね。
でも健司さんは、そのあまりに科学的な分析を聞いて苦笑します。

   「……味気ない人生だったな、僕も。食事って、ただ腹を満たすだけの作業だと思ってたよ」

するとナナさんは、

   「訂正します、マスター」
   (第42話より)

と言いました。
ここ。
わたし、とても好きです。
ナナさんが「訂正」したかったのは、38.2℃と68.5℃という計算結果そのものではないのだと思いました。

むしろ、
「味気ない人生だった」
と、健司さんが自分自身をそう総括してしまったこと。そちらだったのではないでしょうか。
「あなたが感じた温かさは、単なる30.3℃の温度差だけではありません」とでもいうように。
ここで、話は「物理的な温度」から、別の「温度」へ移っていきます。

   「食事とは、生命活動を維持するためのエネルギー補給であると同時に、精神的な充足感を得るための、重要なコミュニケーションの一環です。」
   (第42話より)

作る人がいて。食べる人がいて。
相手を思って整えて、差し出す。食べる。
「美味しいですか?」と尋ねる。「うまい」と返ってくる。
それを聞いた作り手が、嬉しくなる。
 ――その往復まで含めて、食事は「コミュニケーション」なのですね。



⚫︎ 「私との、コミュニケーションは、いかがですか?」

そして。
ナナさんは、そこからさらに一歩踏み込みます。

   ナナは、そこで一旦言葉を切ると、少しだけ身を乗り出し、健司の瞳をまっすぐに見つめて言った。

   「マスター。私との、コミュニケーションは、いかがですか?」
   (第42話より)

…………。
え。……そこ、聞くんですか。
しかも、
少しだけ身を乗り出し。瞳をまっすぐに見つめて。
さらに。

   黒曜石のような瞳に、自分の間抜けな顔が映っている。
   (第42話より)

!!!!!!
近い近い近い近い!!
黒曜石のような瞳に健司さんのお顔が映るくらいの距離って!!
そんな距離で、そんな質問をされたら。
そりゃ健司さんの心臓も、
ドクン。ってなりますよ!
わたしの心臓まで跳ね上がりました。

でも。
ここで聞かれているのは、ちゃんと「お食事」のことなんですよね。
食事はコミュニケーションの一環。
作り手と食べる側の心が通じ合えば、最高の食事になり得る。
――では。「私とのコミュニケーションは、いかがですか?」
そういう流れ。

お食事のお話です。
ええ。お食事のお話なんですけど。
…………。 なんでしょうか、この威力。



⚫︎ 怒涛の数時間

その質問を受けて、健司さんは、ナナさんがこの家へやってきてからのことを思い返します。
作中では、まだ数時間。
読者にとっては、昨年9月からです。(約1年!笑)

朝ごはん論争。
掃除機の命名騒動。(「マスターは、この子のことをどうお呼びになるのですか?」)
数々の下ネタ誤変換。(かぐや姫も出てきましたね)
そして、(物語の時間軸では)つい先ほどの『爆乳天国』の惨劇。(ミシミシ……ミシリ……!)

……。
うんうん。
ありましたねぇ。本当に、いろいろありました。
その結果、

   ポンコツ。
   いや、思考回路がショートしている、とんでもないアンドロイドだ。
   (第42話より)

否定できません。
ところが。その直後。

   ――だが。
   (第42話より)

と置かれて、空気が変わります。
本当に変わりました。



⚫︎ ――だが。

健司さんの視線は、再び食卓へ戻ります。
温かいご飯。味噌汁。
そして、自分のために作られたおかず。

   この温かさは、どうだ。
   18年間、ただ息をしていただけのこの家に、生活の灯をともしてくれたのは、誰だ。
   (第42話より)

ああ……。「生活の灯」。なんて、いい言葉なんでしょう。
そして。

   孤独に凍りついていた僕の心を、そのトンデモない言動と、不器用な優しさで、無理やりこじ開けて溶かしてくれたのは、目の前のこのアンドロイドではないか。
   (第42話より)

(⌒-⌒; )こじ開けたんだ……。ナナさん。
とうとう、こじ開けちゃったんだ。
しかも、無理やり。

でも。
健司さんは、それを嫌だったとは言っていないのですよね。
むしろ、こじ開けられたことで、自分の中に凍ったまま残っていたものへ、ようやく温かさが届いた。溶かしてくれた。
そんなふうにも感じました。
うん。新しい温かさを外から渡したというより、健司さんの中にずっと眠っていた温かさ。永久凍土のように凍っていた“それ”を、ナナさんが温めて、溶かしたのですね。(こじ開けた、ともいう)


⚫︎ マスターとしての。――いや。

そして。
今回、わたしが特に立ち止まった一文があります。

   ならば、正直に答えるのが、マスターとしての。
   いや、一人の人間としての誠意だろう。
   (第42話より)

この、「いや」です。
「マスターとして」では、終わらなかった。
一度そう考えてから、自分で言い直した。

   「一人の人間として」。

マスターとA.I.C.S.という関係は、何も変わっていません。
でも、ほんの一瞬だけ、その肩書きの下にいる「一人」と「一人」が、顔を出したように感じました。
ナナさんが、「私とのコミュニケーションは、いかがですか?」と尋ねた。
だから健司さんも、役割としてではなく、一人の人間として正直に答える。
そして。



⚫︎ 「……ああ。最高だよ」

   「……ああ。最高だよ」
   (第42話より)

…………。
あの。ハンカチじゃなくて、バスタオルください。
そんなに真正面から答えるんですか。
「うまい」でもなく。「楽しい」でもなく。「悪くない」でもなく。

最高。

なんですね。

この一言を読んで、わたし、しばらく先へ進めませんでした。
だって、この「最高」は、もう料理だけを指しているようには読めないんですもの。
その直後に、

   最高に頭は痛いが、最高に飯はうまい。
   最高にどうかしているが、最高に温かい。
   それが、健司の偽らざる気持ちだった。
   (第42話より)

と書かれているから…。

ナナさんの
・困ったところも。
・理解不能なところも。
・数々の騒動も。
それを全部なくして、綺麗なところだけを見て「最高」と言っているわけではない。

   全部ある。

・最高に頭は痛い。
・最高にどうかしている。
でも。
   
最高に温かい。

それら全部ひっくるめて、
「最高だよ」なんですね。

完璧だから大切なのではない。
困らされるところまで含めて、その人が自分の暮らしの中にいることを、健司さんが受け入れ始めている。
そんな言葉に聞こえました。
😭✨


⚫︎ タイトル回収:お味は、いかがですか?

ここまで読んでから、もう一度タイトルへ戻ります。
『第42話 お味は、いかがですか?』
前話は、『第41話 美味しいですか?』でした。
わたしが初見でタイトルを見て誤爆かと思ったくらい、似ている二つのタイトル。

でも、第42話を読み終えてみると、わたしには少し違って見えました。
第41話では、「美味しいですか?」と問いかけられた。
そして今回。「お味は、いかがですか?」と問いかけられた健司さんが、「うまい」と答える。
でも、それだけでは終わらない。
食事はコミュニケーションだとナナさんが言い、「私とのコミュニケーションは、いかがですか?」と、もう一度尋ねる。その先で、ようやく出た答えが、「最高だよ」だった。
だから今回の『お味は、いかがですか?』という問いは、目の前の料理から始まっているけれど、
読み終えたときには、
“ナナさんがやってきてからの、この時間のお味は、いかがですか?”
という問いにまで広がっていたように感じました。



⚫︎ 30.3℃では測れない温度

38.2℃から68.5℃。
その差、30.3℃。
でも。
健司さんが今回感じた「温かさ」は、きっとその数字だけでは測れないのでしょうね。
誰かが、自分のために火を使ってくれること。
自分のために食事を整えてくれること。
自分が食べるのを見ている人がいること。
「美味しいですか?」と尋ねてくれること。
そして。
自分の答えを聞いて、嬉しそうに笑ってくれること。

   その言葉を聞いたナナの顔が、ふわりと、夕陽の中に咲く花のように、嬉しそうに綻んだ
   (第42話より)

この笑顔まで含めて、食事という「コミュニケーション」なのかもしれません。

第1話で描かれていた、あの朝。
お味噌汁の香りがする家で目覚める健司さんへ、ようやく、ここから繋がっているのですね。
第42話。とても、とても温かいお話でした。
次のお話も、楽しみにしております。

では、また『感想のお部屋』でお会いいたしましょう👋
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。







kou様へ

第42話。更新を見つけた時はもちろん「アンドロイド、更新きたー✨」と嬉しかったのですが、まさかこんなにも心を揺さぶられるお話だとは思っていませんでした。

まずは。
健司さん。ようやく、ちゃんと「いただきます」まで辿り着きましたね!笑
昨年9月から連載を追いかけてきた読者として、なんだかものすごい達成感があります🤭
そして今回は、ナナさんの「訂正します、マスター」からの言葉が、とても胸に残りました。
科学的な分析をするA.I.C.S.でありながら、その分析だけでは説明できない「温かさ」を、今度は“コミュニケーション”という言葉で捉え直したこと。
そして、その問いへ健司さんが、「マスターとして」ではなく、「一人の人間として」答えようとしたこと。
その答えが、「最高だよ」だったこと。
……あぁ、もう。
健司さんの口からそんな言葉を聞かせてもらえるとは思っていませんでした。





それと。
先日のコメントにて、「ギターの弾き語り」を本当にありがとうございましたm(_ _)m
予期せぬところで番外編を読ませていただき、なんだかもう放心状態でしたよ。
言葉を失うとは、このこと。というくらいに。
本当に素晴らしかったです。


あの時、ナナさんは健司さんへ、
「マスター。よろしければ聴かせて頂けませんか?」
と、健司さんの“音”を求めましたよね。

そして健司さんは、
「……下手だぞ」
「……一曲だけだぞ」
と、照れながらも、ずっと閉じていたギターケースを開けるように、自分の音をナナさんへ渡していたように読みました。

特に、
「求められることが、これほどまでに胸を締め付けるものだとは知らなかった」
という一文が、ずっと心に残っています。


今回の第42話では、なんだかその時とは反対側から、同じ橋を渡っているようにも感じました。

あの番外編では、ナナさんが、
「あなたの音を聴かせてください」
と求める側だった。

今回はナナさんが、
「私とのコミュニケーションは、いかがですか?」
と、自分から差し出したものが健司さんへどう届いているのかを尋ねる。

そして健司さんは、一人の人間として、
「……ああ。最高だよ」
と答える。

“聴かせてほしい”と求められて、音を渡すこと。
“届いていますか”と尋ねられて、「最高だよ」と返すこと。

んーー。
なんだか、二人の間にあるものが、一方通行ではなく、少しずつ往復するようになってきたように感じました。
あの番外編も、とても好きでした。
こんなにも素敵な「その後」を書いてくださって、ありがとうございました。





そして、ふと。
前話の【感想のお部屋】その7で、わたしは、
「『美味しいですか?』という問いは、“今、あなたは、ちゃんと満たされていますか?”という問いでもあったように感じました」と書いていました。
今回、その問いに対する答えを、少し聞かせてもらえたような気持ちにもなりました。
あの問いに対して、健司さんの『最高だよ』以上の答えはないように思います。



『31』へのコメントもありがとうございました!
毎日違うフレーバーが、わたしの近況ノートにピッタリとハマったとおっしゃっていただけたこと。
ありがとうございます!
そんなふうに解説していただいて、なんだかとても嬉しいです。

【感想のお部屋】
【写真のお部屋】
【好奇心のお部屋】(これは“小説”カテゴリに入れてるかな)

……

過去には、

【考察のお部屋】や【虹(二次)のお部屋】なんてお部屋もありましたが、

なんだかそのふたつは【感想のお部屋】へ統合されつつあるように感じています。

それぞれのお部屋をフレーバーに例えた読みをしていただき、

これからそれぞれのお部屋へ向かうときに、
「今回はこの香り✨」と、自分が綴る上でも何か纏うものができたような感覚になりました。

そんな31回目を過ぎて、次に開いた【感想のお部屋】が、図らずも――
【感想のお部屋】を開くきっかけとなった『アンドロイドは下ネタの夢を見るか?』だったことが、不思議でなりません。



アイデアは浮かぶのに、どうも交通整理が苦手のようで、

あれもこれも、うわーーとなってしまいますが、これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回も、楽しみにしております。


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