「もう、誠くんってば全然起きないよぉ。このままじゃ風邪ひいちゃうよ」
放課後の教室。
俺は机に突っ伏したまま、寝たふりを続けていた。
最初は本当に寝落ちしていたのだが、三人が近づいてくる気配で目が覚めてしまい、起き上がるタイミングを完全に失った。
三桜さんが困ったような声を出しながら、俺のシャツの袖口をちょこちょこと引っ張っている。
「三桜、ただ引っ張るだけでは起きないわ。人間の睡眠周期から計算して、耳元で一定の周波数の声を聞かせるのが最も効率的よ」
「ふ、二葉ちゃん! それすごく顔が近……っ」
耳のすぐ横で、清涼感のあるシャンプーの匂いがふわりと動いた。
「……マコト。起きなさい」
低い、吐息のような声が、直接耳朶をくすぐってくる。
心臓が跳ねた。
だが、今さら起き上がれるはずがない。
「二人とも甘いって。こういうのはね、実力行使に限るの」
一花さんが、面白がるような足音で近づいてきた。
俺の頭のすぐ横で、机をコンコンと叩く。
「ねえ誠。起きないと、膝枕しちゃうけど」
背中を嫌な汗が流れた。
この人は、こういう時に限って本気でやりかねない。
俺は観念して、重い頭をゆっくりと持ち上げた。
「あ、起きた」
一花さんが、心底残念そうな顔で舌打ちをした。
……起きないほうが正解だったのか、俺は。
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