向かった先の地方で知った現実
アザミは外国人観光客が少ない秘密の場所へ向かう。言っておくが差別ではない。そして観光客が寄りつかない地方の悪口でもない。
インターネット社会でまだあるのか。隠れた場所が。そもそもまるで冒険みたいなスケジュールで露骨に誰も用がない場所にプラダファイルがあるなんて彼はとんだベタベタな王道好き人間なんだなとアザミは髪をかき分けながらひねりのない事実に『はあ』と息を吐く。
なんだか落ち着いてきた。だんだん彼がどういう人物だったかを思い出した。そういえばバイト先で知り合ったっけ。
彼と最初に出会ったもう潰れた飲食店。バイトがつまらなくて仕方なくながめていたインターネット。彼はホラーが好きなのか、バイトの愚痴をコロナ禍でエンタメに影響が出ている状況と監督になりたくてなれない事情を、話題に困ったアザミがホームドラマを見ていたことを話したら彼だけ盛り上がっていた。
今思えば子どもの頃に見たドラマの話題を振っただけなのに、彼は自分の思想を上手く子どもからお年寄りまで現実逃避できる内容を作りたい魂だけは伝わった。
アザミはそこまで話す彼の熱意に興味を持って友だちになった。つまらない生活をおたがいに楽しむため。だんだん将来の不安が勝ってしまい彼は突然死してしまったのだけど。
プラダファイルがどんなものなのかおおよそ検討はつく。わざわざ彼がアザミに遺した理由もむかし言えなかった告白という大人っぽくも子どもっぽいまわりくどさでもなければ、金になる物品をしまったわけでもない。
歩きにくい海の近くにある洞窟。彼が隠したプラダファイルの資料はアザミひとりにしか分からない情報と道への細かな配慮があってもし彼が生きていたらちょっとデートに誘おうか考えてしまうほど彼の真摯で紳士なホラーへの執念に不謹慎ながら顔が赤くなった。
でもこれでプラダファイルがほんとうに『アザミさん好きです』と書かれた安い書き置きだったら値上げで減った貯金と交通機関で失われた時間が無駄になるのでもしそのとおりだったらアザミは死後カーフキックを彼におみまいする。
まるで現金や資産を不正に隠す脱税者のように彼は洞窟にプラダファイルを仕込んでいる。ヒントはあるが答えだけはなぜか教えてくれない。彼のこだわりは子どもよりも幼い。
「交通費返せって言えない状況をわざと作ったのかな」
プラダファイルを探し続け、立ち向かっているのに逃げているような洞窟の中でアザミはもうやめてもいいかなとやる気を失った左手をブラブラさせる。
カチッ
左手が洞窟の痛くない岩にぶつかって何かスイッチを押した音がした。アザミは目の前に下から登る何かを
「へえ。ってまた資料? プラダ“ファイル”だから?」
換金できるファイルなのかは分からない。アザミはゴム手袋でプラダファイルを確認する。彼のことを悪く言いたくないがこっちはまだ死ぬわけにはもいかず貯金を続けているのだ。なんとか収穫を得ないと…。
「読めない言語。海外の言葉じゃない。かといってホラーによくあるような逆さ言葉とか鏡文字でもない」
アザミには読める。彼と過ごした時間は短くて、じつは言うほど親しくもない。
なのになぜだ?
彼はどこでプラダファイルを……私たち家系が厄介なやつらの召喚に必要な暗号を強制的に読まさせる仕様に?
きがついた?
アザミと彼が出会った今までに作為的なものは感じなかった。ただひとつ確信したのは
彼のホラー好きは想像以上だっただけ。
「あらあら。他人事じゃないけど、しばらく退屈しなさそうだ」
「私は欲に目がくらんだだけ」
しかも亡くなった友だちの目的を受け継いだだけ。悪くないし被害者でも加害者でもない。
ああおかしい。本物の恐怖と危機感を感じる人間は極わずかにとどまっているだけなんだと、アザミはフィクションへ少し感情移入した。
洞窟から去るアザミを引き戻そうとしないモノノ怪たちの
そのはずなのに、アザミはいつも社会に中指を立てていたからかつられて笑ってしまっていた。
プラダファイルESCAPE[1] 釣ール(短編と詩やエッセイ用) @nokeroya_005
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