とあるショールームでホームパーティーに参加した話

咲野ひさと

秋を探しに

「皆様にはこれから、秋のホームパーティーをお楽しみいただきます」


 女性の涼やかなアナウンスでイベントが始まった。

 友人と行った会場は、誰もが知る住宅会社のショールームの一角だった。

 新しいライフスタイルを提案するダイナミックな空間展示や、インタラクティブに防犯や防災を学べるモニター展示などが並ぶ、さらに奥。

 このためにスペースが確保された、大がかりな仕上がりだ。  


 ――――のわりに、参加者は多くない。八人ほどと、アテンドしてくれるスタッフさん。

 はてさて、どんなパーティーになるのだろう。 

 季節に合わせて、会場の設えが変わるとは聞いているが……。


「最初に少し説明を。お渡ししたステッキは、このように使ってください」


  言われるがままに振ってみる。

  自分の少し前方の地面に向けて、左右に手首を返す。

  続いて自己紹介。四方から発せられるニックネームを聞きつつ、つかの間の名を考える。


「では中に入ります」

「……」


 経験したことのない異質さに、足が出ない。

 友人の息遣いが聞こえてくる――――わけでもない。


 置き去りにされそうな恐怖感を押しとどめてくれたのは、手だった。

 目の前の肩に置いた手のひらから、ニックネームしか知らない人の温かさと確かさが伝わってくる。

 自分の肩には友人の手。一列になってエスコートされつつ、エスコートしつつ。ゆっくりと足を擦る。


 するとショールームらしい毛足の短いカーペットが、硬質なタイルに変わった。  戸建ての玄関が作られているらしい。

 框を越えてフローリングに上がると、列をくずして自由行動。会場内を探索できることに。


「右に行ってみようかな」

「ここに椅子がありますよ」


 ステッキにイスの足が当たり、コツンと響く。

 木のひじ掛けは丸く、握るのにちょうどいい太さ。

 腰を落ち着かせるうちに、あちこちから聞こえる声の距離が遠くなる。


「この先、ウッドデッキになってる」

「近くにハンモックがありますよ。探してみてください」


 私も少し大胆になって、フローリングのエリアを外れる。

 ザラザラとしていて、歩くとポクポク鳴る。

 ……ウッドデッキだ。


「ありました! わ、どうしよ」


 知らない誰かがハンモックを見つけられたらしい。揺れる感覚が不思議なのか、キャッキャと歓声をあげている。


「お庭にも秋がありますから、探してみてください」


 そろそろここらで――――と思う間も無く、庭の奥で声がする。


「カボチャですね! おおきい」

「そっちにいきます」


 ウッドデッキから一段下がって、庭へ。

 オフィスビル内で再現された地面は、枯葉の音がした。


「あ、ここです」

「これですね」


 ……なるほど大きい。

 パンッと張った固い皮が、ピタピタと手から熱を吸い取っていく。

 他にも隠れた秋を探すうち、テーブルの方から集合の号令が。


「なに飲みます?」

「えっと、ホットのブラックで」


 ずいぶんと打ち解けたので、無礼講で。

 甘いチョコやフワフワのロールケーキをつまんだり、近くにあったジュースを入れてあげたり。

 と、カップが回ってきた。


 一口すする。

 とても熱い、淹れたてのコーヒーだ。


 色は……きっと、真っ黒なのだろう。

 この会場のように。


◆◇◆


 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

 すぐにお気づきだったでしょうか?


 そうです、完全な暗闇を体験する趣旨のイベントに参加した話でした。

 視覚にハンデを持つスタッフさんのアテンドを受けて、平屋のモデルハウスの中を歩き回るという体験。私が参加した回は、ホームパーティーに招かれたお客、という設定となっておりました。


 とはいえ慣れるまで、足を出すのが怖くて怖くて。


 人は情報の八割を「視覚」から得ているのだそう。

 わずかな光さえなくなったら、普段の方法では対処できません。

 いわば、がハンデになる環境。

 早々に見ることを捨て、別の手段で周囲を探る必要があるのです。


 最有力なのが声でした。

 互いを呼び合い、行動するときは動作を伝える。

 説明セリフのようなやりとりで距離感と、それぞれが”見つけた”情報を共有するのです。


 もう一つは手です。

 ステッキ――――白杖から伝わる感触で、これほど素材や重量が把握できるとは。

 そして、参加者と手が触れ合うことで生まれる、安心感と連帯感。


 見えているときよりも打ち解けるのだから不思議です。

 漆黒の中では、嘘は百害あって一利なし。正しく誠実に伝えなければ、ぶつかったりして危険です。

 また見えないことで、無意識に行っている比較ができない、という面も大きかったのではないかと思っています。


 もちろん、見えることはありがたいことです。

 おかげでこうして文を書き、読めていますから。

 しかし、声と手でつながる世界も豊かでした。


 それもこれも、スタッフさんをはじめとする「思いやり」のおかげ。

 たった一度の体験で福祉を論ずる気はありませんが、相手が求めている物を知ろうとする気持ちが、一番のサポートに思えました。

 会場はバリアフリーではなく、点字ブロックもありません。その中で、はじめは文字通り手も足も出なかった私が、ヤケドしそうなコーヒーをお代わりできるくらいになったのですから。


 さて、そろそろ締めくくりましょうか。

 初挑戦のエッセイ、ちゃんとエッセイになっていましたかね。

 参加したのは何年も前でしたので、細部はウロ覚え。頻繁に演出が変わるようなので、同イベントでまったく別の体験をされた方もいらっしゃるかもしれません。

 

 ……おられたら、どう感じられましたか?

 未体験の方にはオススメしておきます(正式名を表記していいかわからず、タグにヒントを入れました)

 現在の常設会場は東京だけらしいのですが、チャンスがあればぜひ。


 手の知覚、かなり侮れませんから。

 


~了~



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