プリンスとカラス

 車はまた、何もない場所を走っていた。

 めちゃくちゃな表示盤から漏れるオレンジ色の光に照らされて、プリンスは上機嫌だった。

 

「ふっふふん、ふんふふーんふん、ふっふふふん…♪」

「うるさい。移動中は静かにしろ」

 

くふん、とまだ鼻歌の混ざった声でプリンスは笑った。

 

「いいじゃないか。うちのお姫さまのお気に入りだったんだ」

「それはもう散々聞いた」

「おやぁ、そうだっけか。じゃあ、ヤキモチだ」

「黙ってろ」

「素直じゃないね。でも、駄目だよ。お姫さまは特別だからね」

「おい、」

「いくら君が強くて良い男でも……ぅがっ!」


 激しく車体が揺れてプリンスは強かに舌を噛む。

 横目で見たカラスが片頬を持ち上げた。


「だから黙れと言ったのに」

「わかる訳ないだろ!?舌を噛んだじゃないか。仕事に支障が出たらどうするんだ」

「自慢のアイスで冷やしたらどうだ、王子様?」

「……随分と、意地の悪い事を言うじゃないか」

 

 口を押さえるように窓枠に肘をつくプリンスは、アイスクリームが食べられない。

 そういう決まりだった。

 

「なぁ、おい。アイスじゃなくても冷やせそうだぞ……」

 

 プリンスに舌を噛ませて着地した世界を見て、カラスが唸る。

 

「いやぁ、この世界は長引きそうだなぁ」

 

 プリンスは笑った。

 一面の銀世界。

 街の灯りは遠く、アイス屋の軽トラは雪原のただなかに一台きり止まっている。

 

「冷たい物って需要あると思う?」

「その辺の、雪でも売ったら良いんじゃないか……」

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カラスのアイス屋さん 月兎耳 @tukitoji0526

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