第6話



 後日、エドアルト・サンクロワがメリクの許を再び訪れた。


 彼は子供のように泣きじゃくった姿を師に見せてしまって恥ずかしいと思っているのか、若干頬を赤くした顔で、だが真っ直ぐにメリクを見て、「ウリエルと一緒に行きます」と改めて言った。


「ウリエルともう少し一緒に行きます。

 母のことは、父が守ってくれています。

 俺は何の心配もしてない。

 母にも言われました。

 自分の大切に想う人を守りなさい、一緒に戦いなさいって。

 俺も、そう思いますし、そう願ってます。


 だから俺はウリエルと行きます。

 ウリエルと共に行く、貴方を守る。

 貴方がウリエルの側を離れようと思った時は、俺も地上に戻ります。

【天界セフィラ】の為じゃなく、ウリエルの為でもなく、

 地上の人達の為に、また旅を始めようと思っています。


 それが……俺のしたいこと。

 願いです。


 二者択一じゃないんですよね。

 天か地かじゃない。


 俺が今、守りたいもの、側にいたいもの。

 今出来ることを、力いっぱいしたい。

 選べるものはちゃんと選んで。


 ……あなたに第一の生で出会えたことが、俺が一番嬉しかったことだから」





 

 


「なんだっけ? 【光の術師】が過った道を例え選んでも、

 彼が辿って来た光の因果が、彼を守る方へ動くんだっけ?」








 そうと決まればもっともっと剣の稽古今のうちにしてきます! と大剣を背負って元気いっぱいに【天宮】を飛び出して行ったエドアルトを見下ろしながら、ラムセスは窓辺で笑った。


「……あれは光の因果の一部じゃない。彼自身の魂の輝きですよ」


 優しい軽口を叩いたメリクに、


「あっそう。どっちでもいいよ」


 鼻を摘ままれる。



「サダルメリク」



 声の方を見た。


「早く目が見えるようになれよな。

 お前が心から願えば、今すぐにでも俺の顔がお前には見れるから」


 メリクは灰色の瞳を瞬かせた。それから小さく笑う。


「貴方の顔が見えるようになると、何かいいことがあるんですか?」

「もちろんあるさ。俺はいい男だから、更に惚れ込むぞ」

 もう一度目を丸くしてから、メリクは吹き出した。


「そうですか。それは…………ぜひ見てみたいですね」


 幼くすら見える、明るい笑顔だった。


 最近よく、こいつはこの顔で笑う。




【終】

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その翡翠き彷徨い【第90話 エドアルト】 七海ポルカ @reeeeeen13

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