13話 未来事情
「おい、朝飯を食いに行こうぜ!!」
溌溂とした声と共に勢いよく扉が開いた。飛鳥は眠たそうに目をこすりながら、声の主に挨拶をする。
「レオナさん……おはよ」
「おお。その調子じゃ良く寝れたみたいだな」
「おかげさまで」
あの後、飛鳥はクレインを説得し、自分が落ち着く部屋に変えてもらった。部屋の広さに壁紙の色、家具の位置まで飛鳥が望んだ通りに整えられていた。
2025年で自分が生活していた部屋と同じだった。
「一瞬で模様替えできるなんて……流石は未来だ」
「外に出たら驚くことはまだまだあるぜ。だから早く飯に行こうぜ。私は良い店知ってんだよ。めちゃうまだぜ?」
「分かりました」
飛鳥はクローゼットを開ける。配置までは完璧だったが、中までは再現できなかったらしく、空っぽだった。
「あの、服がないんだけど」
「服なら昨日渡しただろ?」
「これ……だよね?」
飛鳥は着ている服を引っ張った。
ぴったりと張り付いた淡いグレーの服。触れると見た目よりも柔らかで、それでいて動きやすい。まるで最初から飛鳥のためだけに作られた服のようだった。
「違和感はないけどさ……でも、やっぱ出掛けるなら着替えたいな」
「なんだ、飛鳥も私みたいな服を着たいのか?」
レオナは服を見せびらかすようにくるりと回った。
鮮やかなピンクの上着には赤い襟が付いており、紺のリボンが胸元で揺れる。
膝より随分高い位置でスカートの裾が靡いた。
「いや、そういうわけじゃないけど……」
飛鳥は服に拘りを持つタイプではない。同じ種類の服を何着か持ち毎日同じ服装で過ごしていた。
「なら、それでいいじゃんか」
「いや、俺はパジャマと服は分けたいんだ。寝汗が付いてる気がして嫌じゃない?」
例えパジャマが外に出れるデザインのモノだったとしても、外出するときは外用の衣服を身に付けたかった。
「まあ、気持ちは分かるけどな。でも、それが理由ならその服は大丈夫だ。自動温度調整機能に汗や汚れは自分で分解。伸縮自在で体型にぴったり。ああなんて素晴らしい服なんだ」
レオナは大袈裟に褒め称えた。
「……レオナさんはこの服、好きじゃないんだ」
「当たり前だ。服は着替えるからこそ意味がある。デザインを自在に変えれるからって、着替えないのは話が違うぜ」
「え、デザインって変えられるのか? なら、ちょっと変えてみたいな」
飛鳥は試してみようとするが、やり方が分からない。
肩を叩いたり、手を色んな所にかざしてみたが、変化はなかった。
「あー、まだ無理だぜ? 後で博士に頼んで登録してもらうから、ちょっと待ってろ」
「登録……?」
「ああ。でも、博士は中々起きないからな。先に朝飯を食おうぜ」
レオナは扉を開いた。柔らかい朝日が部屋に流れ込む。
未来で過ごす初めての朝。
どんなことが待っているのかと、その光に期待を覚えるのだった。
◇
外に出ると、そこに広がっていたのは飛鳥が想像していた未来とは全く違う光景だった。
未来と聞いて飛鳥が想像したのは、子供の頃にテレビで見た「未来からやってきたロボットの世界」。空中を車が走り、独創的な建築物が立ち並び、自然よりも人工物が多い世界。
けれど、眼前に広がる景色は違っていた。
建物の間を縫うように河川が流れ、朝日を受けて水面と建物が柔らかく反射する。歩道には木漏れ日が落ち草花が風に揺れる。街全体が輝く宝石にでもなったようだ。
風が運ぶ香りは、幼少時に泊まりにいった祖母の家を思い出す。
「これが……未来」
飛鳥の声は小さく漏れた。
道路を走る車は、カプセルのような形状で無音で滑るように進む。歩道に電線は一切なく景観を損なうことはなかった。
まるで都市全体が空気も光も全て計算されて設計されているかのようだった。
人工物と自然が調和した世界。
「どうだ、未来は?」
「凄い……ね。こんなに自然があるとは思ってなかったよ」
「だろ? 天気も空気も全部管理されてるし、植物も改良されてる。時が経てば自然とこうなるさ」
飛鳥はレオナと歩き始める。道路を走る車は飛鳥の時代とそんな変わりはなく、歩道を歩く人々と何人もすれ違う。
「でも、なんか意外だな」
「なにがだ?」
「いや、外を歩いたりする人がいるんだなって。てっきり、瞬間移動するのかと思ってたよ」
過去に行く技術があるならば、一瞬で目的地に辿り着く技術があるはずだと飛鳥は思っていた。だからこそ、こうして普通に人が歩いている光景が不思議だったのだ。
「ああん? 何言ってんだ。人が自分の足で歩かなくなったら、そりゃもう人じゃないだろ」
自らの意思で手足を動かして――目的地に向かう。
それすらも放棄したら、それはもう人間じゃないとレオナは乱暴に言った。
「そうかも知れないけど、そう言うことじゃないって言うか……」
レオナは時々、想いを優先して話をする癖があるようだ。飛鳥は小さく笑い足を進める。
「何笑ってんだよ」
「笑ってない」
飛鳥は笑みを消して無表情を創り上げる。
「いーや、絶対笑ってたね。私の目は誤魔化せねぇ。言っとくがな、私は銃くらいなら目で見て避けられるぞ?」
「マジで?」
自分の表情は銃弾より早く切り替わったかと考えていたところで、遠くに白く神々しい巨大な建物が現れた。蕾のような形。外殻は滑らかで淡く発光している。
明らかに周囲とは異質の空気を放っていた。
「あれは……?」
飛鳥の問いに、レオナは顔を曇らせて遠くの建物を睨んだ。
「あれは過去に行くための場所だよ。あそこで行きたい時代を選んで、過去へ飛ぶ」
「あそこが……」
飛鳥は足を止めて建物を見つめた。
あそこから、マホを酷い目に合わせた男がやってきたのか。もし、今も過去の人々が同じように酷い目にあっているならば、一刻も早く助けたい。
「あの施設を壊せば……もう過去が買われることはないんですか?」
想いを行動に移そうとする飛鳥に、レオナは一呼吸おいて、ため息交じりに首を振った。
風がレオナのリボンを撫でた。
「落ち着けよ。それで済むなら私だってそうしてるさ」
レオナは人差し指を立て、理由を告げる。
「いいか? あそこは複数あるうちの一つだ。一つだけ壊したって効果はねぇ」
突き上げた指で、後方を指差す。振り向くと遠くに同じような形状をした建物があった。
「あ……」
レオナは飛鳥に追い打ちを掛けるように、中指を立てる。
「二つ。あそこは『時越想纏』を持っている連中が管理してる。その数は一人や二人じゃ済まねぇぞ?」
戦いになった場合の物量が違うとレオナは二本の指を動かした。
「ま、だからと言って私だって諦めてるわけじゃねぇんだけどな。だから、過去の奴らを助けながら、仲間を増やしたり、『時越想纏』の技術を身に着けてんだ」
レオナは歩きだした。
数歩進んだところで、くるりと身体を捻って振り返る。
「私はお前に期待してんだ。一緒に世界を変えられそうだってな」
ニシシと笑うレオナの笑顔に嘘はなかった。
一人ではなく誰かと一緒に行動する素晴らしさを――飛鳥はマホから教えて貰った。
レオナの言う通り、今はまだ力が足りない。『
飛鳥は現実を握るようにゆっくりと拳を閉じ――レオナを追って歩き出した。
クロノ罪人 朝昼夕夜 @oneday365
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クロノ罪人の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます