第7話

 地上へ上がった後、地下に何かあると思った私は警察を呼んだ。地下から人の声がするから、念のために調べて欲しいと伝えたのだ。


 警察が確認したところ、座敷牢からは白骨化した遺体が発見された。


 それから暫くは、警察に呼ばれたり、火葬された遺骨の埋葬先を探したりと忙しくしていたが、梅が咲き始める頃にようやく落ち着いた。


「なんか、俺が関わらないところで色々大変だったんだな」


 夫と縁側でコーヒーを飲みながら、淡いピンク色に染まる梅の木を眺める。春はすぐそこだ。


「いいのよ、大輔は能天気な感じで。私はなかなか癒されているのよ」

「あ、そう?」


 緩んだ顔で笑う夫のスマホが鳴った。


「もしもし……え? 本当ですか? はい、はい!」


 夫はガッツポーズをして興奮している。電話を切り終わった後「麻美!」と叫んだ。


「何かいい事でもあったの?」

「すごいぞ、俺のアート作品がアメリカのコンクールで受賞したんだ! 賞金なんて二千万円だぞ」

「えっ? 本当に? すごいじゃない。おめでとう!」


 それからというもの、夫のアーティストとしての活動は順調そのもの。コンクールに出品すれば受賞し、オーダーメイドの作品は驚くような高額で依頼される。


 私たちは一気に裕福になった。一つ気になるところがあるとすれば、娘の変化だ。


「紬、また爪を噛んでいるの?」


 指摘された娘はバツが悪そうに爪を隠す。時々、爪をかじったり、めくったりしている。いつ頃からか現れた癖だ。


 また、娘の目つきに時々違和感を感じる。瞬きの回数は減り、執着するように相手を睨み付ける。優しい子で今までそんなキツイ顔をする事はなかった。思春期だからだろうか。


 何にしろ、引っ越してすぐに起こった気味の悪いことはもう起きていない。全ては終わったのだ。でも、直子さんの話をしてくれたお婆さんが、何か犬神について大事な事を言っていたような……。


 ある日、一本の電話が掛かって来た。


『お世話になっております、紬ちゃんの担任の井川いがわです。

実は先ほど、娘さんと二人の女の子が口論になりまして。その際、娘さんが二人に噛み付いたそうなんです』

「えっ」

『私、実際に見ていないのでどちらが悪いかは断言できないんですよ。彼女達から聞き取りもできない状態です。

噛まれた女の子達は錯乱状態、紬ちゃんは大変失礼な言い方をすると、犬のようにずっとうなって興奮されていまして。

それで、噛まれた傷の状態が酷く、相手の親御さんが話し合いの場を設けたいとおっしゃるので今から学校へ来ていただけますか?……お母さん、聞いてますか? お母さん?』


(了)

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その階段を降りてみて 陶子 @mori-leo

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