第5話:朝日が未来を染める前に

まだ夜の名残が空に薄く漂って

いた。

窓の外は深い青と淡い灰色が

溶け合い、

その境目がゆっくりとほどけて

いくところだった。


遥は静かに目を覚ました。

胸の奥に小さな緊張がある。

けれど、それは不安というより、

新しい一歩を踏み出す前の、

静かな鼓動のようだった。


試験当日の朝。

部屋の空気はひんやりとしていて、

その冷たさがかえって心を

落ち着かせてくれる。


カーテンを少しだけ開けると、

まだ昇りきらない朝日が、

遠くの空を淡く染め始めていた。

その光は弱々しいのに、どこか

確かな気配を持っている。


「大丈夫。きっと、行ける」


声には出さなかった。

けれど、その言葉は胸の奥で

静かに形を持ち、

ゆっくりと広がっていった。


支度を整え、玄関の扉を開ける。

外の空気は澄んでいて、

夜と朝の境目にしかない

透明さをまとっていた。


歩き出すと、

靴音がまだ眠っている街に

小さく響いた。

その音が、今日の始まりを

そっと告げているようだった。


道の先で、空が少しずつ明るくなる。

朝日が未来を染める前の、

ほんの一瞬の静けさ。

その時間の中に身を置いていると、

遥は自分の呼吸がゆっくりと

整っていくのを感じた。


昨日までの迷いや不安は、

完全に消えたわけではない。

けれど、それらはもう足を

止める理由にはならなかった。


「結果はどうあれ、私は

私のままで進めばいい」


その確信は、

朝日よりも先に心を照らしていた。


試験会場が近づくにつれ、

空は少しずつ色を変えていく。

淡い桃色、薄い金色、

そして、ゆっくりと力を

帯びていく光。


遥は立ち止まり、

その光をしばらく見つめた。

胸の奥に、静かで確かな

温度が灯る。


未来はまだ形を持っていない。

けれど、その曖昧さが今は

心地よかった。どんな色に染まるのかは、

これからの自分が決めていく。


遥は深く息を吸い込み、

ゆっくりと吐き出した。

その呼吸が、今日という

日の始まりを確かに刻む。


そして、静かに歩き出す。


朝日が未来を染める前に、

自分の足で選んだ道を、

確かめるように。


FIN

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ケセラセラと風が言うから、私は今日も歩き出す tougen_87 @tougen_hana

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