第5話

 銀貨はロカテリアの顔が利くという両替商で、小さなカバンに収まる量の金貨になって渡された。

「カネと切符だ、乗り遅れたら再発行はできんぞ」

 

 子どもを連れた若い連中と合流を果たした村人たちは、再会も悲願の達成も喜び合う暇もなく列車に乗り込む。

 特等とまではいかなかったが、一等寝台を一両丸ごと村民が埋めたため、長い列車の旅を子どもたちはのびのびと過ごせた。

 途中の駅で新聞を買ったが、列車強盗の件が記事になっていない。どうしてか村長は保安官に訴え出なかったらしい。

 代わりにポルトンが無事に納会に間に合い、奇抜な髪型で上役に大いにウケたという記事を読んだ。

 村人たちはお礼を言うために列車の中をくまなく探したが、一緒に乗り込んだはずのロカテリアは気づけばどこにも姿が見当たらなかった。



 切符の行先だった小さな駅に、ぞろぞろと降りた村人たちは、元の村とさほど変わらない開拓具合に不安そうに顔を曇らせる。

「みなさーん、ようこそ」

 線路の向こうから、元気な若い女性が両手を振って呼んでいる。

「教師のアリーです!」

 教師というワードに、子どもたちと親の顔が輝いた。 

「学校をご案内しますよ!」 

 まだポカンとしている老人たちを残して、次々と子どもたちは線路を渡って真新しい校舎に駆けていく。


「ロカテリアさんから速達をいただきましてね、待ちわびておりましたよ。どうぞこちらへ」

 続いて駅舎まで迎えに来たのは、品の良い老夫婦だった。

「実は我々は、そのロカテリアという女性に切符をいただいて、何も知らずにここへ来たのです」

 恥ずかしそうに告げた村人に、婦人のほうが「まぁ、彼女らしい」とコロコロ笑う。

 

 都会で財を築いて息子に店を譲った夫婦は、田舎でのんびりスローライフの隠居生活をしたいという一団を連れて、この土地に移り住んできた。

 いつかはここを子育てのしやすい田園都市にと目指した夫婦は、何より先に学校を建てたらしい。

 しかし都会の便利な生活に慣れた裕福な老人たちに、農作業はあまりに過酷だったらしく、半年ももたずに町へ戻っていってしまった。

 希望に燃える新任教師のアリーと、同じ列車に乗り合わせたロカテリアが、この町に降り立った時、老夫婦は二人きりで迎えに立ったのだ。


 空き家と新校舎と手つかずの豊かな土地を見渡して、ロカテリアは大きく深呼吸した。

「もったいないねぇ。少し待ってな。種まきの時期までにここを耕す農民と、かわいい生徒たちを連れてきてあげるよ」

 

「そんじゃあ……俺たちこの町に住んでいいのか」

「そ、そうだ町長。この金で家と土地を買わせてください」

 金貨の入った鞄を差し出した村人に、老夫婦はゆっくりと首をふる。

「家も土地も、自分たちには不要だからと前の人たちが置いていったの。それに無料で使ってもらうことがロカテリアさんとの約束ですから」

 あまりに幸運な申し出に、村人たちは声も無い。

「それに、ワシら夫婦はただの開拓団で町長じゃない。このお金は、みんなで話し合って何に使うのが良いか決めていくといいでしょう」


 列車強盗ロカテリアの巻き起こした風に飛ばされて、綿毛の種のように村人たちは新しい土地に根付いていった。

 やがておとずれる歴史的な干ばつの年に、遠い故郷の村から銀貨三袋分の麦が贈られてくることは、まだ、遠い未来の話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探検家ロカテリアの列車強盗 竹部 月子 @tukiko-t

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画