「余白の声」第14話「聞いていた人の話」
秋定弦司
怨嗟の声のそばで
あるお方がおりました。
そのお方は事情を抱えて私の職場にこられたようでございます。
ご本人曰く、「元いた会社――私どもの親会社――から追い出された」との事。
その点につきましては、いかなる事情があったかは存じませんが、私なりに同情の念を抱きました。
そのお方のお話にも耳を傾けてまいりました。
ずっと……ずっと……。
しかし仰られる事はずっと同じ。
元いた会社への「怨嗟の声」ばかりでございました。
ああ、私の仕事でございますか?
「赤の他人様」の無理難題を延々聞かされる仕事でございました。
一度だけ、その「赤の他人様」に声を荒らげた事はございましたが、それ以外は先程申し上げたとおりでございます。
そのような仕事の中、私は「そのお方」の声も聞いておりました。
ずっと……ずっと……毎日……毎日……。
私の心がすり減るのは当然の事でございます。
仕事が休みの日は「解放感」よりも「疲労感」に襲われ、外出もままならない状態でございました。
そして、私はついに壊れました。
静かに……静かに……。
医師からの診断書を手に、上司のもとに赴き、1か月の休暇をいただきました。
しかし、私は愚かにも「そのお方」の事を伝える事を失念……いえ、あえて心の中に封じてしまいました。
やがて休暇が終わり再び仕事に戻りました。
しかしながら、「そのお方」の怨嗟の声は止むことを知らず、じわりじわりと私の心を蝕んでいきました。
とうとう心だけではなく、身体まで壊れました。
通勤時、勤務中……突然意識を失い、気が付けば救急車という事も幾度かございました。
そして、朝も身体が起きる事を拒否するようになりました。
これ以上ここにいては取り返しのつかないことになる……そう考えた私はこの仕事から去りました。
それから数年経ちました。「そのお方」は元いた会社に戻られたようでございます。
色々な方へのお礼の言葉はございました。しかしながら、貴方様の「怨嗟の声」を心身を壊してまで聞き続けた私の名前はそこにはございませんでした。
……
……
……
クソッタレ!
「余白の声」第14話「聞いていた人の話」 秋定弦司 @RASCHACKROUGHNEX
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